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日経平均先物システムの設計と運用成績(1):日中データ編 [システムトレード]

1年ほど前に依頼を受けて、日経平均先物システムを設計しました。その際、それ以前に設計していた日経平均株価システムと似たような挙動を示すことが予想されたため、基本システムのみでは性能向上に限界があると考えました。

そこで、基本システムのシグナルにフィードバックをかける追加システムを適用し、設計を行いました。
システムは当初、日中データのみで設計しましたが、その後日夜通しデータでも設計しています。

システム設計は、日中データ、日夜通しデータそれぞれにおいて、基本22システム×追加4システムの計176システム総当たりで行いました。
各システムの概要については、ココナラブログ掲載の「KFシステムクリエイター取扱説明書」等をご参照ください。

分析期間は、日中データが2008年2月1日~2021年7月16日、日夜通しデータが2011年7月19日~2021年7月30日となっています。
また、各システムは分析期間の翌立会日に(仮想)運用を開始し、2022年8月5日まで更新しています。

システム設計完了時点で、日中、日夜通しの各システム群から、追加システムの性能が良好な各3システムを選出し、その後の成績を監視しています。
今回は、それらの中から日中データシステムについて、以下に示します。なお、システムのパラメータ等については、伏せさせていただきます。


①日中データRSI順張り正システム vs 同追加システム

次図に、日中データRSI順張り正システムの性能指標、資産カーブ、運用後資産推移、累積損益率を示します。
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続いて、日中データRSI順張り正追加システムの性能指標、資産カーブ、運用後資産推移、累積損益率を示します。
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両者のここ1年余りの運用成績は共に21.21%で、差はありません。これは、基準システムと追加システムのポジションに違いがなかった、すなわち、追加システムが発動するほどに基準システムのドローダウンが大きくならなかったことを示しています。

しかし、過去の性能については、両者で顕著な差があります。個々の性能指標の値については、データを見比べてください。
資産カーブを見ると、基準システムでは特に2020年終盤から2021年初めにかけて、急激な落ち込みが見られますが、追加システムではそれが上手く回避されています。

その効果もあって、追加システムの資産カーブは極めてロバスト性が高く、その結果、累積損益率は14年余りで27倍ほどになっています。
年率換算した年率リターンは25.78%ですが、これはあくまでレバレッジ1倍の値です。

このシステムの場合、レバレッジ3倍程度まで安全に運用することが可能です。現行水準で言うと、証拠金2,800万円で3枚、すなわち933万円で1枚を売買することができます。
それにより、年率リターン77%もの運用が期待できることになります。


②日中データRSI逆張り逆システム vs 同追加システム

次図に、日中データRSI逆張り逆システムの性能指標、資産カーブ、運用後資産推移、累積損益率を示します。
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続いて、日中データRSI逆張り逆追加システムの性能指標、資産カーブ、運用後資産推移、累積損益率を示します。
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これらのシステムの場合、基準システムと追加システムとに際立った違いは見られません。全期間を通じては、追加システムの方が性能が上ですが、直近に限って見れば基準システムの方がやや上回っています。

両者の差異が小さいのは、基準システムのトレード数の多さが原因だと考えられます。その結果、1トレード当たりの最大STDや最大ETDが小さくなるため、追加システムにおける転換シグナルが発動し難くなっています。


③日中データ累乗平均2逆システム vs 同追加システム

次図に、日中データ累乗平均2逆システムの性能指標、資産カーブ、運用後資産推移、累積損益率を示します。
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続いて、日中データ累乗平均2逆追加システムの性能指標、資産カーブ、運用後資産推移、累積損益率を示します。
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これらのシステムは、トレード数が多いにもかかわらず、基準システムと追加システムとで性能に大きな差があります。
その原因は、基準システムの最大STDや最大ETDの大きさにあります。追加システムの適用により、大幅な性能向上が図られていますが、直近に限って見れば、両者の運用成績に違いはありません。

追加システムは、一見良好に見えますが、①や②のシステムほどには安定性はありません。最適レバレッジが2.49と小さく、最大ドローダウンが48.45%もあることから、レバレッジは2倍程度までしか掛けられません。


以上、日経平均先物の日中データを用いた3つのシステムについて、結果を記しました。先物取引は証拠金に対して、最大10倍程度の金額の取引を行うことが可能ですが、むやみにレバレッジを上げれば、一気に破綻してしまいます。

運用するシステムがどの程度のレバレッジまで機能するのかを十分に見極め、その範囲内での運用を心掛ける必要があります。
安全に運用できる最大レバレッジを高めるためには、資産カーブのロバスト性をいかに高めるかが重要となります。

追加システムの適用は、ロバスト性の向上に対して極めて有効ですが、その安定性については十分な検証を行う必要があります。
少なくとも、基準システムと同等以上の期間に渡って、最適パラメータの安定性を有しなければなりません。

次回は、日経平均先物の日夜通しデータを用いたシステムについて、紹介いたします。

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動的パラメータシステムの再検証:9519レノバ [システムトレード]

トレーディングシステムにおいて、最適パラメータの決定は極めて重要な要件の一つです。一般的には、最適パラメータが最適でなくなったときに、そのシステムは終焉を迎えたと判断されます。

しかしその一方で、終焉を迎えたシステムに対し再最適化を行うことで、そのシステムを蘇らせることができるのではないか、という考えもまた存在します。
このように、最適パラメータを更新し続ける事によって、システム寿命の延長を計るシステムを、動的パラメータシステムと呼ぶことにします。

この考えそのものは古くからあり、当ブログでも14年前や11年前に何度か取り上げています。ただし、その当時は検証する道具に乏しく、客観的な判断を下すことはできませんでした。

例えば、2011年1月26日の記事「動的パラメータシステム(1)」などでは、時系列分析結果を用いて過去に遡って最適パラメータを検出し、最適パラメータの推移によって資産カーブがどう変化するかを検証しました。

しかし、最適パラメータ自体、正確には最適化対象指標を客観的に求めることができず、全ての時間軸において同じ最適化対象指標による最適パラメータを用いざるを得ませんでした。

その後、システム改良を進める中で、最適化対象指標の自動選定が可能になり、過去に遡って最適パラメータを客観的かつ一意的に求めることができるようになりました。
直近の改良においては、次図に示すように最適化対象指標や最適パラメータ、そして売買シグナルを、日毎に求めることが可能となっています。
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このように、過去に遡って全ての日付における最適パラメータと売買シグナルを求めた後、合成システムからそれらのシグナルを呼び出すことで、動的パラメータシステムが得られます。

なお、売買シグナルを適用するシステムとして、追加システムではなく合成システムとしたのは、動的パラメータシステムが最適パラメータ違いの複数のシステムを、時系列に合成したシステムだからです。

余談となりますが、既存システムを動的パラメータ対応システムに更新するには、「パラメータ抽出システム復元ツール」を用います。
同ツールで既存システムのパラメータファイルを生成し、そこからシステムを復元することで、動的パラメータ対応システムに変換します。

動的パラメータ対応システムでは、インデックスシート上で上図に示した日々のMaxFactorやPrm1、Prm2、PreSignalを自動検出しますが、そこから実際の売買シグナルを抽出するためには、オペレーションページで「動的シグナル演算」ボタンを押す必要があります。

なお、動的シグナルは全ての日付における最適パラメータに基づいたシグナルを発するSignal1と、特定日付以前の最適パラメータを固定してそれ以降のみ動的シグナルとするSignal2とを、それぞれ生成します。

分析日数が少ない時点では最適パラメータの変動が激しく、システム性能も安定しません。そこで、ある程度の日数が経過し、最適パラメータが安定してきた時点から動的システムの検証を行いたい場合には、Signal2を用います。
これらの選択は、参照先となる合成システム上で行うことができます。

今回は、動的パラメータシステムの動作確認を行うため、9519レノバについて実際にシステムを作成し、検証しました。
本銘柄を選んだ理由は、上場から日が浅く、値動きが激しいため、通常システムと動的システムとの差が顕著に表れると考えたからです。

元システムは2017年2月23日を起点日とし、2022年4月28日時点で時系列分析を行いました。その後、2022年7月6日まで更新しています。
また、Signal2を参照した動的パラメータシステム2では、2020年末までを固定パラメータとし、2021年初めから動的パラメータとしています。

それらの結果一覧を次図に示します。上段が元システム、中段が動的パラメータシステム1、下段が動的パラメータシステム2となっています。
検証したシステムは、11種類のロジックの正逆で全22通りです。
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全体的に見ると、各システム性能は、元システム>動的パラメータシステム2>動的パラメータシステム1、であることが分かります。
それらの中で比較的性能が良好なVWAP正システムについて、各資産カーブを以下に示します。

結果一覧同様、上段が元システム、中段が動的パラメータシステム1、下段が動的パラメータシステム2となっています。
また、比較しやすいように、各軸のスケールは揃えています。
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じっくり比較するまでもなく、各システムの性能差は歴然です。これらのことから、少なくとも9519レノバに関しては、動的パラメータシステムは上手く機能していないことが分かります。
恐らくは、他の銘柄についても同様の結果となるでしょう。もちろん、厳密にはそれらの検証を待つ必要があります。

何故、動的パラメータシステムは機能しないのでしょうか?
それは、最適パラメータが最適でなくなるのは、往々にしてシステム性能の低下局面にあるから、と考えることができます。

また、新たに取って代わった最適パラメータは、あくまでそれまでの全期間の性能を最適化するものであり、必ずしも直ちに性能を向上させるものではない、ということです。
そのため、最適パラメータが変わっても、直近最適パラメータと比較して、以降の性能が向上するかどうかは分かりません。

ただし、今回の検証では、統計的な安定性を重視した最適化対象指標を用いている、ということが、逆に動的パラメータシステムの性能低下をもたらしている可能性を否定できません。
例えば、損益累計を最適化対象指標としたならば、また違った結果となっていたかもしれません。

静的なシステムでは、全体を通じた資産カーブの安定性に重きを置きますが、動的なシステムではあくまで最高資産残高を繋ぎ合わせて行くことで、全期間を通じた安定性を担保することが出来るような気もします。
それについては、今後検証を進めたいと思います。

あるいは、最適パラメータが変わるまでシステム運用を続けるのではなく、資産カーブが一定の基準、例えば管理限界を割り込んだら一旦システムを停止し、その後、最適パラメータが変わったタイミングで運用を再開する方法も考えられます。
これについても、いずれ検証を行いたいと考えています。

また、最適化対象期間を一定期間毎に区切り、それらをつなぎ合わせれば、性能が向上して見えるかもしれません。
しかし、それはあくまで見かけ上に過ぎず、実際には直近までの短い期間で最適化を行ったシステムに外なりません。そのようなシステムは論外と考えます。

今回の結果は、11年前の結果と大きな相違はなく、ある程度予想できたことではあります。ただ、検証方法については大きな進歩があり、ほぼ自動的に動的パラメータシステムを作成することが可能となりました。

今後は、上に述べたいくつかの課題について、検証を進めて行くつもりですが、何せ還暦を迎えた身として、体力的にも気力的にも、10年以上前のようには動けないかもしれません。
当ブログの更新ペースも落ちていますが、何卒ご容赦くださいませ。
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Amazon Kindle Unlimited の歩き方:Kindleへのパーソナル・ドキュメント登録 [電脳電網奥義]

このところ、めっきり書籍を購入することがなくなりました。3年ほど前までは、電子書籍を購入していたりもしたのですが、それ以降は基本的にサブスクで済ませています。
最初はTマガジンを契約していましたが、1年も経たないうちに廃刊となり、その後しばらくの間は電子書籍サブスク難民の状態が続きました。

Tマガジン廃刊後、代替サービスを探してみたものの、当時愛読していた「Mr.PC(ミスターピーシー)」を取り扱っているサブスクが見つからず、躊躇していました。
Tマガジン契約前は、毎月800円ほどで購入していた書籍であり、サブスクとは言え半額(400円)ほどの料金で購読できることに魅力を感じていたのです。

そうこうしている内に、AmazonでKindle Unlimitedが2か月無料のキャンペーンを見つけ、とりあえず契約してみることにしました。
無料期間終了後の料金は月額980円で、Tマガジンの2倍以上するのですが、「Mr.PC」を取り扱っていたことや、雑誌や漫画だけでなく新書や実用書なども読み放題の対象となっていることなどから、現在も購読を続けています。

Kindle Unlimited(以下Kindle)では、雑誌の閲覧も然ることながら、多くの新書や実用書が読めることも大きな魅力です。
以前は端末に保存できる書籍の数は10冊まででしたが、現在は20冊まで拡張されており、読みかけの本の保管にもほとんど不自由がなくなりました。

ちょっと古めのパンローリングの投資本なども読み放題の対象になる事があり、気になった書籍などは、とりあえず保存しています。
なお、無料購読に期限がある書籍もありますが、端末に保存されている限り、期限が切れても閲覧することができます。

ちょっと変わったところでは、いわゆるKindle出版といわれる自費出版電子書籍の多くが、無料購読の対象になっていることです。
内容的には疑問符の点くものも多いですが、他の人がどのようなスキルや内容で出版しているかを知ることは、大いに参考になります。

Kindle端末やアプリなどでは、Kindleで出版されている書籍以外にも、手持ちのPDFファイルを読み込んで閲覧することもできます。
手っ取り早く閲覧するには、ファイルマネージャでファイルを開く際に、Kindleを閲覧アプリに指定します。するとKindleアプリが起動し、ファイルが閲覧できます(Androidの場合)。

この方法は手軽ではありますが、Kindleアプリを単なるビュアとして使っているに過ぎず、ファイルを閉じるとKindleも終了します。
Kindle内にファイルの痕跡は残らず、当然、しおり(レジューム)等の機能は働きません。

実はKindleでは、通常の書籍と同じようにアプリ内にファイルを保存し、いつでも自由に閲覧することができる機能があります。
通常の電子書籍と変わりませんから、次回閲覧時には、前回終了したところから再開することができるなど、使い勝手が向上します。

PDFファイルをKindleに登録するには、ちょっとした手順が必要です。いかにその方法を記します。

①Web上のAmazonサイトから「アカウントサービス」を開き、「デジタルコンテンツとデバイス」の「コンテンツと端末の管理」を開きます。

②「端末」タブから、「デバイスにインストールされているAmazonアプリ」の「Kindle」を開きます。

③PDFファイルを登録するデバイスを確認し、そこに記載されているEメールアドレスを控えます。デバイスが複数ある場合は、「デバイスのコンテンツを見る」をクリックして、目的のデバイスかどうかを再確認します。

④「設定」タブを選択し、「パーソナル・ドキュメント設定」を開きます。「パーソナル・ドキュメントの保存」が「有効」になっていることを確認します。

⑤「Send-to-Kindle Eメールアドレスの設定」で、③のEメールアドレスを再確認します。もしもEメールアドレスを変更したい場合は、「アクション」の「編集」から変更することもできます。

⑥「承認済みEメールアドレス一覧」で、PDFファイル送付元のEメールアドレスを確認します。なお、利用するプロバイダ等により、メールに添付できる最大ファイル容量が異なります。登録された承認済みEメールアドレスでは容量が不足する場合、より大きなファイルを送れるアドレスを追加してください(注1)。

⑦メールアプリを開き、宛先に⑤のアドレス、差出人に⑥のアドレスを設定します。件名を空欄のままにして、Kindleに送るPDFファイルを添付し、送信します。件名の確認を要求されても、そのまま送信してください。

⑧送付先デバイスのKindleアプリを開き、送信したPDFファイルが登録されていれば完了です。以降、通常の書籍と同様に閲覧することができます。

(注1)So-netメールの場合は、添付できるファイル容量は実質14MB程度です。それ以上の容量が必要な場合は、Gメールやヤフーメールを用いれば、19MB程度まで添付することができます。他にもクラウドを利用する方法等があるようです。
ちなみに、Kindleが受信できるファイル容量は最大で50MBであり、パーソナル・ドキュメントの全容量は5GBまでのようです。

なお、PDFファイルを送信する際に、件名を空欄にすると、そのままPDFファイルとして登録されますが、件名に「変換」と入力すると、Kindle形式に変換して登録されます。
Kindle形式では、文字の大きさやフォント、レイアウト等を変更することが可能です。また、Kindle出版を行う際の事前確認にも利用できます。

ただし、PDFファイルによっては、Kindle形式に変換すると、文字や文章の欠落やレイアウトの乱れなどが生じる場合があります。
ワードで作成しPDF形式で保存したファイルで、そのような症状を確認しています。

特に問題となっているのが、ページ切替わり時の文章欠落や、元ファイルにおける行末箇所に半角スペースが入る場合があること、改ページが機能していないこと、等です。
もちろん、元のPDFファイルでは、問題なく表示されています。

ブログに投稿した記事の本文部分を選択してコピーし、それをワードに貼り付けた後、フォントやレイアウトなどを変更して体裁を整え、PDF形式で保存しているのですが、このようにして作成したファイルをKindle形式に変換すると、正しく表示されない場合があるわけです。

当初はPDFファイルの作成過程に問題があると考えていたのですが、よくよく考えてみたら、Kindle形式の変換前ファイル形式はワードのDOCX形式が推奨されています。
そこで、ワード形式のファイルをそのままメールに添付し、件名に「変換」と付けて、Kindleに送信してみました。

その結果、KindleアプリにKindle形式に変換されたファイルが登録され、閲覧することができました。
文字の欠落やレイアウトの乱れもなく、ワードで作成した文章そのままに表示できています。表紙を付ければ、そのままKindle出版できそうです。

現在、AmazonにはAmazonプライムを始め、Kindle Unlimited、Amazon Photos、Amazon Music Unlimited、を登録しています。結構な依存度ですが、いずれも手放せない状況です。
一方、Amazonアソシエイト・プログラムにも登録していますが、今後、Kindle出版も考えていきたいと思います。

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資本主義と社会主義、民主主義と専制主義:資産カーブと管理限界 [投資・経済全般]

トレーディングシステムの性質を最もよく表す評価項目として、資産カーブとその標準誤差推移があります。
これは、日付に対する資産残高推移もしくは累計資産増減率推移と、その回帰直線およびそれから標準誤差の2倍離れた平行線をプロットしたチャートです。

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これを簡単に、「資産カーブと管理限界」と呼ぶことにします。「資産カーブ」が「資産残高推移」、「管理限界」が「回帰直線と平行な直線」を意味します。
システムトレードにおいては、このチャートを見れば凡そのシステム性能の見当がつきます。

一般的には、資産カーブの傾きが大きくて、管理限界の幅(レンジ)が狭いほど良いシステムであると考えられています。
また、資産カーブが管理限界から逸脱する量や頻度が少ないほど、安定した運用が可能となります。

この資産カーブと管理限界の考え方は、システムトレードに限らず、世の中のあらゆる物事に適用することができます。
この時、資産カーブに相当するものは、統計量や物理量もしくは概念の推移、管理限界はそれらから統計的に求められる客観量です。

例えば、資本主義を資産カーブで表すと、傾きが比較的急峻であるものの、管理限界のレンジがやや広い、というイメージになります。
一方、社会主義の場合は、傾きは資本主義ほど急峻ではないものの、管理限界のレンジは狭い、というイメージになるでしょう。

これらをEERで比較すると、いずれも同程度になるかもしれません。
資本主義はEERの分子をいかに大きくするかを追求し、社会主義はいかに分母を小さくするかを追求する形態であるといえます。

資本主義はある程度の格差を容認し、全体として資産カーブを上昇させようとします。そのため、資産カーブのロバスト性(直線性)には目をつぶります。
その結果、管理限界のレンジが比較的広くなってしまいますが、全体としては右肩上がりを持続します。

社会主義の場合は、格差を出来るだけなくそうとします。そのため、資産カーブのロバスト性は良好ですが、上昇力は資本主義ほど大きくなりません。
もちろん、管理限界のレンジは狭くなるため、一見安定した推移となります。

これらの関係は、資本主義を民主主義、社会主義を専制主義に置き替えても、ほぼ成り立ちます。
民主主義は様々な意見の相違を容認しつつ、全体としての発展を目指します。一方の専制主義は意見の相違を認めず、統制の取れた社会を是とします。

問題は、どちらのシステムがより優れているか、ということです。
トレーディングシステムではEERが大きいほど良いと考えますが、上記の事例ではEERに大きな違いはありません。理論的には「どちらでもよい」ということになります。

しかし、共に行き過ぎた事例を示すことはできます。これをトレーディングシステムで考えてみます。
なお、以下の説明はあくまで私の経験に基づくものであり、必ずしも客観的に正しいという訳ではありません。

最初に資産カーブのロバスト性が悪く、管理限界のレンジが極めて広い事例です。
この場合は、平均的には右肩上がりの資産カーブであり、管理限界から逸脱することもなくレンジ内を推移するように見えます。

長期的に捉えた時、資産カーブが右肩上がりであることから、最終的な資産残高は上下動を伴いながらも、平均的には増えていきます。
しかし、複利で考えると話は違ってきます。資産変動があまりに大きいと、累積損益率は1を大きく下回ってしまいます。すなわち、資産が増えるどころか大幅に減少することになります。

一方、資産カーブのロバスト性が高く、管理限界のレンジが極めて狭い事例では、一見すると極めて良好な資産推移を示します。
累積損益率で見るとその傾向はより顕著になり、複利効果によって資産残高は指数関数的に増大します。

しかし、このようなシステムは通常、過剰最適化という可能性を孕んでいます。そのため、資産カーブが管理限界を大きく外れると回復力を失い、最悪の場合、同推移は転落の一途をたどります。

過剰最適化を避けるための、絶対的な方法は存在しません。経験的には、資産カーブ形成の前提となる各種条件から逸脱しないように、運用を継続できるかをチェックする必要があります。
その一つが統計期間であり、もう一つが最適パラメータ継続期間です。

統計期間は、資産カーブの形成に当たって、いかに多くの経験値(事象)を反映させるかを決定します。
より多くの経験を積んだ資産カーブであればあるほど、新たな経験に対する反応がより的確になると考えられます。

このようにして形成された資産カーブは、過去の大きな原体験の変動を乗り越えて構築されているため、管理限界のレンジはある程度広くなってしまいます。
しかし、それが結果的に管理限界付近からの中央回帰を呼び覚まします。

例外を棄却したり、直近の事象ばかりで形成された資産カーブは、それに当てはまらない事象が起きると、管理限界付近からの中央回帰が働きません。
その結果、資産カーブは管理限界を容易に突き破り、決して戻って来ない状態に陥ると考えられます。

なお、資産カーブはパラメータの変化に対して極めて脆弱です。通常、システムロジックにおいて最適パラメータが変化すると、その資産カーブは大きく変化します。
ここで重要なのは、最適パラメータは連続的に変化するのではなく、ポイントからポイントへジャンプ(遷移)する、ということです。

そのため、最適パラメータの遷移(変化)によって、資産カーブはドラスティックに変化します。
そうなると、それまでの経験はすべて白紙に戻り、新たな経験に基づいた資産カーブでの運用を余儀なくされます。

それがより良い結果を生む場合ももちろんありますが、多くの場合、管理限界のレンジは広がり、EERは低下します。
すなわち、いくら高EERの理想的な運用を目論んだとしても、管理限界から大きく外れた途端にそれまでの資産カーブは破棄され、管理限界のレンジが広く、より低いEERに甘んじた資産カーブでの運用にならざるを得ません。

さて、こうして考えると、社会主義や専制主義の脆弱性が見えると共に、それらがいずれは最適パラメータの遷移によって、管理限界のレンジが広いシステムに移行する様子を説明できます。

その状態は正に資本主義や民主主義の資産カーブであり、社会主義や専制主義はいずれ崩壊して、それらの状態に落ち着くのではないかと思えます。
しかし、その過程は一筋縄ではいきません。資産カーブの再形成に当たっては、一旦、管理限界のレンジが急拡大します。更には資産カーブの上昇力は低下し、システムとしては最悪の状態に陥ります。

その後、新たな最適パラメータが機能し始めることで、ようやく資産カーブは落ち着きを取り戻していきます。
同じロジックで考える限り、その資産カーブは崩壊前の状態に戻ることはなく、長い年月をかけてようやく有効に機能していくことになります。

ここで、思い切ってそれまでのロジックを捨て、新たなロジックでシステムを再構築する場合もあります。
その方がシステムの回復に掛かる時間を短縮できる可能性がありますが、同じ経過を繰り返してしまう可能性も除外できません。

結局のところ、資本主義や社会主義、民主主義や専制主義という枠組みは、資産カーブから見れば単に異なる側面を表しているに過ぎません。
理想的な資産カーブとは、ある程度広い管理限界のレンジを許容しつつ、相応の上昇力を維持し続ける、と言えるかもしれません。

そこへのアプローチ方法は一つではなく、資本主義側から目指す場合もあれば、社会主義側から目指す場合もあるでしょう。
その一つの答えが、EUであったり中国であったりするのかもしれません。

ちなみに、専制主義に関しては、政治的には独裁に陥る場合が多く容認しがたいものがありますが、企業活動においてはむしろ独創性を生み出す源泉になっている事例が多々あるように思います。しかし、それも度を過ぎれば萎縮や盲従を生み出し、企業活動を停滞させる要因になります。

いずれもリーダーの資質次第であり、上手く機能している内は大きなプラスの作用となりますが、いずれは弊害が出てきてしまう事例が多々あります。
その最大の要因はリーダーの変質であり、長期に渡って自らを律し続ける事が如何に困難かを物語っています。

優れたリーダーがその資質を維持するために、自らを律し続ける必要があるのは言うまでもありませんが、自らが変質してしまった時にリーダーを降りて次のリーダーに託すための、公正で厳格な仕組みを作り上げることが、最重要の仕事なのではないかと思います。

自らの任期を終身化したり、犯した罪を罷免したりすることは、リーダーとしての資質を自らが放棄する行為であり、到底容認できるものではありません。
そのような人物がリーダーとして居座っている組織は、いずれ朽ちていく運命にあるものと考えます。

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エクセルのちょっといい話(22):エクセル2013以降の不都合緩和 [エクセル]

エクセルのちょっといい話(20):エクセル2003の並列実行」で触れたように、直近エクセルを含むエクセル2013以降では、シートを開く度に表示位置がずれて行くという問題があります。

また、マルチスレッド計算(マルチコア演算)を有効にしていると、複雑で重い処理を行うブックではオーバーヘッドが発生し、処理が著しく遅くなったり、場合によってはハングアップしてしまうことが少なからずあります。

こららの問題は、エクセルの設定を変えれば何とかなると言ったものではなく、ブック毎に対処する必要があります。
なお、マルチスレッド計算に関しては、エクセルの設定で無効化することができますが、使用環境によっては解除後に再び有効にしておく必要があり、面倒です。

KFシステムクリエイター及びそれに関する一連のツールにおいては、基本的に全てのブックでマルチスレッド計算を無効化しています。一方、システムに関係ないブックでは、マルチスレッド計算を有効にしています。
これらを上手く使い分けるためには、各ブックのマクロベースで対処する必要があります。

VBAには、マルチスレッド計算を制御するMultiThreadedCalculationというオブジェクトがあります。これをThisWorkBookモジュールに記述することで、ブックオープン時にマルチスレッド計算を無効化し、ブッククローズ時に再び有効にすることができます。

また、ブック(ウインドウ)の表示位置を制御するには、Application.Top及びApplication.Leftというプロパティを使えば可能となります。
これらは表示位置の取得の他に、表示位置の指定にも使用できます。

これらを用いてエクセル2013(マルチスレッド計算についてはエクセル2007)以降で生じる不都合を緩和することができます。
その概要は、次の通りです。


1.標準モジュールでの型宣言

この宣言はシートモジュールに対しても行うため、Publicを用いる必要があります。項目はブックの上位置、ブックの左位置、エクセルのバージョンの3つです。

2.ThisWorkBookモジュールでの起動処理、終了処理

ブックのオープン時に、開いたブックの上位置、同左位置、エクセルバージョンを取得します。更に、バージョンがエクセル2007以降の場合は、マルチスレッド計算を無効化します。
ブックのクローズ前には、マルチスレッド計算を有効に戻します。

3.シートモジュールや標準モジュールでの処理

ブックから他のブックを開く処理がある場合、ブックを開いた直後にそのブックの上位置と左位置を、元ブックの位置に揃えます。
なお、元ブックの位置がずれた場合に備え、上記ブックオープン前に、念のため元ブックの上位置と左位置を再取得しておきます。


これらの処理により、例えばブック上に記載したファイル名をダブルクリックすると、そのブックが開くといったマクロでは、エクセル2010以前と同様に、開いたブックの位置は元ブックに重なるようになります。

また、複雑な処理を行うブックを開く際には、再計算につまづくことが減り、スムーズな処理が期待できます。
もちろん、マルチスレッド計算に適したブックもあり、それらにとっては逆効果となるかもしれません。まあ、ケースバイケースといったところでしょうか。

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