SSブログ

新しいベーシックインカムの話をしよう(1)~FIRE、年金、ベーシックインカム~ [投資・経済全般]

投資の世界では、今、FIRE(ファイア:Financial Independence, Retire Early)が注目されています。これは、従来のような「億り人」を目指すといった類ではなく、持続可能な投資を継続的に行い、早期リタイアを目指すという動きです。

FIREを達成するには、年間支出の25倍の資産と年利4%の運用益が必要と言われています。例えば、年間支出が240万円(20万円/月)ならば、6,000万円が必要となるわけです。
しかし、FIREとは会社員生活からおさらばすること、と考えると、これだけで十分なのか、よく考える必要があります。

最も重要なのは、配偶者や子供の存在です。例えば、会社員を辞めた途端に、月16,610円(令和3年度)の国民年金負担が発生します。しかも、その額は毎年増えていきます。
配偶者がいればその2倍、子供が20以上の大学生ならば、通常は更にその分が追加されます。

そもそも、子供を大学に通わせるということを考えると、年間240万円の収入では到底足りません。
そして、一時的な支出のつもりで命金である元金に手を出してしまうと、FIREは一気に崩壊してしまいます。

子供に奨学金を受給させるという手段もありますが、多くの奨学金は有利子負債となり、子供の将来に重くのしかかります。
自身の自由を達成するために、子供に不自由を押し付けるようでは、本末転倒です。

年金に関しては、現状において老後の生活を守る最後の砦です。資産運用がいつ暗礁に乗り上げるかは、誰にも分かりませんし、誰にでも起こり得ることです。
そのためのセーフティネットとして、最低限度の年金は将来受給できるようにしておく必要があります。

日本の年金制度は極めて複雑です。それを全て把握することは、ファイナンシャルプランナーでもない限り難しいかもしれません。
それでもFIREを目指す人は、年金保険料の支払いや将来の年金受給について、注意深く考える必要があるでしょう。

一方、私のような自営業者にとっては、年金はかなり微妙な問題になります。特に、月々の収入が安定しない職種の場合は、年金保険料の支払いに頭を痛めることも多々あります。
自営業者の場合は、将来、老齢基礎年金しかもらえない人も多く、それだけで老後の生活を支えるのは極めて困難です。

もちろん、国民年金基金に加入したりすることで、将来受け取れる年金額を増やすことも出来ますが、そのためには国民年金保険料に加えて、より多くの掛け金を支払う必要があります。

概算ですが、老齢厚生年金給付額との平均的な差額である10万円を終身受給するためには、20歳からの加入で現状、月額3~4万円程度の掛け金が必要となります。
若い時から自営業者(フリーランス)として、それだけの資金力がある人はそう多くはないでしょう。

また、恐らく自営業者の場合、自分の体が動くうちは働くという考えがあり、年金というのはあくまで生活の足し、程度の認識かも知れません。
事実、年金の繰り上げ受給者は1割程度いるようですが、その多くは非正社員だということです。

このような人にとっては、年金は将来を保障するものというよりは、ベーシックインカムに近いものだと思われます。
すなわち、毎月(正確には2か月毎)必ず入ってくる固定収入であり、事業が継続している間はそれを補填するもの、ということです。

テレビなどでよく紹介される、老夫婦が営む大盤振る舞いの赤字食堂などは、このような年金込みで生活を成り立たせているのかも知れません。
しかし、社会保障制度が充実している日本においては、このような考えや生活スタイルは、ある意味合理的でもあります。

さて、新型コロナウイルス禍における国民への給付金が取りざたされましたが、そのような背景においてベーシックインカムの議論が盛り上がっています。
全国民に定期的に現金を給付するというこの試みは、究極の社会保障と言えます。

ただし、その実現のハードルは極めて高く、全国民に毎月10万円を給付する場合、年間120150兆円余りの財源が必要になります。
これは現状の国家予算を上回る規模であり、到底実現できません。

給付額を7万円に抑え、更に15歳未満には半額程度の3万円とする案もありますが、それでも80100兆円ほどの資金が必要になります。
獨協大学教授の森永卓郎氏は「全額国債で賄う」などと言っていますが、さすがにそれは無理があるでしょう。

誰もが不可能と思えるベーシックインカムですが、実はちょっと考え方を変えるだけで、実現の道筋を示すことが出来ます。
それは、「差分」という考えを取り入れることです。

そもそも日本国民の大半は、月々10万円以上の収入を得ています。問題となるのは、10万円に満たない収入しかない人々です。
そこで、それらの人々には10万円との差額を給付することで、全国民が10万円以上の安定収入を得ることが出来ます。

これは、ベーシックインカムというよりは、生活保護制度の拡大と解釈されるかも知れません。
しかし、考え方を変えれば、ベーシックインカムとして機能することを示すことが出来ます。

まずは、この方式を採用した時に、どの程度の財源が必要になるかを見積もります。なお、以下の計算はあくまで概算であり、実際とは異なっているかもしれません。
また、元にした資料は各年度に跨っており、統一されたものではありません。人数は100万人単位、金額は1万円単位とします。

まず、日本の総人口は12,600万人であり、内15歳未満は1,500万人です。15歳以上の労働力人口は男3,800万人、女3,000万人の計6,800万人であり、内完全失業者は200万人、就業者は6,600万人です。就業者の内、パート労働者は1,400万人です。

更に、年金受給者は4,100万人で、内国民年金のみの受給者は800万人です。また、生活保護受給者は200万人です。

以上の条件で、15歳以上に月10万円、15歳未満に月5万円を給付するものとして、それに満たない収入の人数と不足額を掛け合わせ、合計します。
その金額が、全国民が月額10万円以上(15歳未満は5万円)の収入を得るために必要な資金となります。

まず、15歳未満は収入がありませんから5万円が全額給付されます。同じく失業者には10万円が支給されます。
年金受給者の内、国民年金のみの人の不足額は平均5万円、厚生年金の場合は不足額はないものとします。

生活保護受給者は10万円、パート労働者は平均賃金との差額1万円とすると、それらの合計金額は月当たり16,900億円、1年間で約20兆円となります。
すなわち、年間20兆円を工面できれば、ベーシックインカムが実現できます。なお、給付額を15歳以上8万円、同未満4万円とすれば、約14兆円に削減できます。

ここで、最初の疑問である「これはベーシックインカムではなく生活保護の拡張ではないのか」という命題について考えます。

そもそも、10万円を全国民に給付するとは、どういうことでしょう。それを実現するために、現状の就労者や年金受給者の収入が減るようでは、国民に受け入れられません。
少なくとも、表面的には現状程度以上の収入を維持する必要があります。すなわち、10万円の給付分を就労者の収入から再分配するわけではないのです。

基本的な考え方は、10万円を「基礎賃金」として定義することから始めます。そしてこれを時給換算します。
例えば、週40時間、1か月で160時間就労した結果が10万円だとすると、その時給は625円となります。

これを基礎賃金とし、現行の賃金との差額を、就労によって得られる賃金である「付加賃金」として再定義します。
そのためには、現行の賃金体系を時給換算に変更する必要があります。

全国民は基礎賃金を国から受け取ると共に、企業は就業者の基礎賃金を国に納付します。その上で、就業者に対しては付加賃金分を支給することになります。
就業者が受け取る賃金はトータルで変わらず、企業の負担も変わりません。

基礎賃金はあくまで定時勤務内の賃金ですから、それ以外の月160時間を超える分については、企業が超過賃金として(基礎賃金+付加賃金+超過手当)を、就労者に支払う必要があります。
また、賞与などについても(基礎賃金+付加賃金)をベースに支給することになります。

パート労働者については、月160時間を超えない範囲では企業から付加賃金を、国から基礎賃金を受け取ります。
160時間を超える分については、正規雇用者の場合と同じです。

現状、パート労働者の平均時給は1,163円というデータがありますから、付加賃金は時間当たり538円になります。
パート労働者にとっては、例えば今まで月100時間、時給1,000円で働いていた場合、月収は10万円でしたが、ベーシックインカムの下では10万円+(1,000-625)円×100時間=13万7,500円となります。

月160時間以上働く正規雇用者の場合、収入は従来と基本的に変わりませんが、パート労働者の場合は大幅なかさ上げが実現されます。
このベーシックインカムの副次効果として、正規労働者と非正規労働者との収入格差を是正することが期待できます。

一方、パート労働者を雇う企業側では、労働者への付加賃金の他に、国へ基礎賃金を納めなければなりません。
その場合、全パート労働者の総労働時間を160時間で割り、それに10万円を乗じた金額が基礎賃金として国に治める金額となります。基本的には、企業が支払う賃金総額に違いはありません。

年金受給者の場合は、それまでの受給額が10万円以下の場合、支給される額は一律10万円となります。
これは一見不公平にも見えますが、賃金があくまで労働の対価だという原則に基けば、止むを得ません。年金は過去の労働の対価だという考えもあるでしょうが、ベーシックインカムの理念が優先されます。

ベーシックインカムを導入するに当たり懸念されるのが、非労働者の増加です。働かなくても生活できるのであれば、働かなくても良いという考えの人が、一定程度存在するであろうことは、容易に想像できます。
その一方で、より良い生活を求めるのもまた人間であり、社会的存在意義を求めるのも人間です。

また、企業は存続と発展を追求する存在であり、必要に応じてその構成員を維持・拡大していかなければなりません。
そのため、求人そのものは絶えることはなく、ベーシックインカムの導入により実効求人倍率が上昇し、より良い求人条件を提示する必要に迫られると考えます。これは労働意欲の向上につながるでしょう。

結局のところ、ベーシックインカムを導入しても、就労者数はさほど減らないのではないかと考えます。
念のために試算すると、80対20の経験則に則って就労人口の内2割が働かなくなるとした場合、追加財源として約16兆円(月額10万円)が必要になります。

それでも日本人が働かない状況になったとしたら、それを補うために外国人労働者が増加することになるでしょう。
その場合、外国人労働者を考慮した新たな枠組みの中で、ベーシックインカム制度を再構築していく必要があるかもしれません。

今回は、新たなベーシックインカムの実現方法について提案しました。次回以降は、今後訪れるであろう最大の課題や、財源の問題について、考察したいと思います。

nice!(0)  コメント(1) 
共通テーマ:

nice! 0

コメント 1

Kフロー

ベーシックインカムの必要財源額について、計算間違いがありました。全国民に月額10万円の場合は年150兆円、7万円/3万円の場合は100兆円になります。
間違っていた箇所を1本線で消し、正しい金額に訂正しました。

by Kフロー (2021-12-29 16:03) 

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

Facebook コメント

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。