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合成株価システムとシステムポートフォリオの性能比較:アンリツ+日本電信電話 [システムトレード]

2021年5月5日の記事「株価推移間の相関分析と株式ポートフォリオの設計」で、6754アンリツと9432日本電信電話との株価合成について説明しました。
合成の結果、EERは元の0.3717と0.7512から1.5070に向上し、合成の効果が極めて大きいことが分かりました。

では、この合成株価をシステム運用したら、性能は更に向上するのでしょうか?それとも、これ以上の性能向上は望めないのでしょうか?
更には、合成元のアンリツと日本電信電話それぞれでシステムを作成した時、それらのシステムポートフォリオ性能は合成株価のそれよりも向上するのでしょうか?

今回は、それらの疑問について検証した結果を報告いたします。
なお、検証に用いた銘柄は6754アンリツと9432日本電信電話で、作成したシステムは全てドテンシステムとなっています。

今回作成した合成株価システムは全22点ですが、その中から比較的良く機能していたものは、逆張り系を中心とした7点でした。
さらに、アンリツ単独のシステムの内、比較的良好だった2点と、同じく日本電信電話の5点、そして、それらのシステムポートフォリオ10点を、比較用として評価しました。

各システムの分析期間は、合成株価の期間に合わせて2010年4月1日~2021年4月30日としましたが、今回示す結果は直近データ更新後の5月21日の性能としています。
評価は、相関係数算出ツールに各システムを登録し、資産カーブやEERを比較することで行いました。また、平均リターンと累積リターンを、KFシステムクリエイターから引用しました。

なお、アンリツと日本電信電話のシステムポートフォリオは、現状、KFシステムクリエイターで単一システム化できないため、資産カーブの合成と、EER及び平均リターンの算出に留めました。
平均リターンは、元システムの値の平均を取ると共に、累積リターンの代わりに元システム間の相関係数を記載しています。

結果一覧を、次表に示します。この表で、薄い緑色の行のシステムは、選択した中で特に良好な資産カーブを有するものです。ただし、アンリツに関しては、元々2つのシステムしか選択しなかったため、全てマークしてあります。
中段はアンリツと日本電信電話のシステムポートフォリオ、下段のA001で始まるグループは、冒頭で述べた合成株価システムです。
システムトレード_性能一覧_20210524a.png

アンリツの元システムは比較的高リターンですが、EERは他の選択システムと比較してやや低めです。他のシステムでは、EERが総じて高いことが分かります。
以下、チャートに基づき、各システム性能を比較します。

アンリツ回帰逆張り正システムの資産カーブは、次図に示すように、2013年と2017~2018年にやや大きな落ち込みが見られます。後者ではドローダウンの大きさ自体は限定的であるものの、期間がやや長いため、回帰直線との乖離が広がっており、そのことがEERが低めである最大の原因となっています。
システムトレード_資産カーブ_20210524b.png

アンリツ累乗平均逆システムは、同様に2017年を中心とした停滞期間が長く、逆に直近における上振れが大きいことが、EERを下げる要因となっています。
更に、アンリツ回帰逆張り正システムよりもリターンが小さいことも、同システムよりもEERが小さい理由です。
システムトレード_資産カーブ_20210524c.png

日本電信電話の各システムは、大きく2つのグループに分かれます。一方は、EERが高いもののリターンはやや低いグループ、もう一方は、リターンは高いもののEERが低めのグループです。
今回の選択は、EERの大きさを最大の判断基準としたため、前者のグループのみを採用する結果となりました。

日本電信電話RSI順張り正システムは、資産カーブが回帰直線上によくフィットしているものの、資産の急落が随所に見られます。チャート的には逆張りシステムのような振る舞いとなっていますが、実際にはトレード数61回の長周期順張りシステムです。

すなわち、資産カーブの粗さは、株価推移の粗さを反映していると考えられます。意外に見えますが、このシステムの最大ドローダウンは37%程度しかありません。
見た目の印象よりもEERが大きいのは、資産カーブが変動しても、すぐに回帰直線付近に収斂するためと考えられます。
システムトレード_資産カーブ_20210524d.png

日本電信電話累乗平均逆システムは、資産カーブこそ上記システムと似ていますが、トレード数409回の逆張りシステムです。
最大ドローダウンは38%程度で、RSI順張り正システムとほぼ同じです。
システムトレード_資産カーブ_20210524e.png

アンリツ回帰逆張り正と日本電信電話RSI順張り正のシステムポートフォリオは、資産カーブの直線性が良好で、EERは2.5733という大きな値となっています。元システム間の相関係数は-0.1323と逆相関になっており、それがEERを向上させる要因となっています。
平均リターンは、元システムの平均値から求めていますが、年率25.91%という高効率となっています。
システムトレード_資産カーブ_20210524f.png

アンリツ累乗平均逆と日本電信電話RSI順張り正のシステムポートフォリオは、やはり良好な直線性を有し、EERは2.4746となっています。
上図のポートフォリオと比べて、アンリツ元システムのリターンがやや低いことから、平均リターンは2.6ポイントほど小さくなっています。
システムトレード_資産カーブ_20210524g.png

アンリツ累乗平均逆と日本電信電話累乗平均逆のシステムポートフォリオは、異なる銘柄における同一システム同士の組み合わせです。そのため、後述するこれらの合成銘柄の累乗平均逆システムと、良い比較対象となります。
本ポートフォリオのEERと平均リターンは、他の2つよりもやや低めですが、資産カーブを見る限り、特に直近における上昇力は、他を上回っています。
システムトレード_資産カーブ_20210524h.png

アンリツと日本電信電話の合成株価の累乗平均逆システムは、今回検証したシステムの中で、2.6939という最も高いEERを有します。しかし、資産カーブを見ると2015年のドローダウンが目立ちます。ただ、このシステムの最大ドローダウンは24%ほどしかなく、ほとんど問題ありません。
システムトレード_資産カーブ_20210524i.png

前述のシステムポートフォリオと比較すると、元システムの最適パラメータは(50,5)と(93,28)であるのに対し、合成株価のそれは、その中間に位置する(71,10)となっています。
では、元システムの最適パラメータを合成株価と同じにすると、そのポートフォリオ性能は合成株価システムと同じになるのでしょうか?

答えは否です。なぜなら、元システムの最適パラメータを揃えても、売買タイミングはけして同じにならないからです。合成株価システムは、その性質上、売買タイミングは構成銘柄で等しくなりますが、ポートフォリオではそうはならないことは明白です。

ちなみに、各システムの最適パラメータ直近継続期間は、アンリツ累乗平均逆は2018年3月29日以降、日本電信電話累乗平均逆は2017年12月22日以降、合成株価の累乗平均逆は2018年4月20日以降、となっています。
いずれもほとんど同じ水準で、分析期間の概ね2割程度となっています。

アンリツと日本電信電話の合成株価のブレイクアウト逆システムは、EERと平均リターン共に、他の合成株価システムやポートフォリオと比べて最小です。
このシステムは逆張りシステムではありますが、トレード数は11年余りでわずか32回しかなく、順張り的な振る舞いとなっています。
システムトレード_資産カーブ_20210524j.png

しかし、このシステムの元となった合成株価は、元々資産カーブの直線性に優れ、そのまま長期保有してもシステム運用と遜色ない水準です。
そのことを念頭に置いて考えると、本システムは元の合成株価の特性を最も忠実に反映していることが分かります。

本システムの勝率は84.38%ですが、買いシステムのみで見ると、何と100%です。11年間で16回トレードして、全て勝っているということです。その平均利益率は11.57%、平均リターンは17.11%となっています。
買いシステムの最大ドローダウンは、時価ベースで17.32%、簿価ベースではもちろん0%です。システム全体でも、時価ベースでは41.72%とやや高めですが、簿価ベースではわずか14.32%に留まります。
システムトレード_資産カーブ_20210524k.png

上図は、本システムの買い運用時資産カーブです。5月5日の記事から分かりますように、合成株価の株価上昇額は11年間で4,000円ほどになっています。一方、買いのみのシステム運用では、累計損益は3割近く増えて5,100円ほどになっています。
何よりも、株価下落をうまく回避していることが見て取れます。

以上、6754アンリツと9432日本電信電話の各システムについて、それらのシステムポートフォリオと合成株価システムを比較しました。
その結果、少なくともこれらの合成株価やシステムについて、以下のことが分かりました。

a.システムポートフォリオを組むことにより、単一システムよりもリスクを低減したシステムが得られる。

b.システム間相関係数の算出は、システムポートフォリオ設計にとって極めて重要である。特に、逆相関の関係にあるシステム同士の組み合わせでは、高いリスク低減効果が得られる。

c.合成株価システムでも、システムポートフォリオと同等程度のリスク低減効果がある。ただし、選択肢はシステムポートフォリオよりも少なく、銘柄によっては良好な結果が得られない可能性も否定できない。

d.合成株価システムとシステムポートフォリオは互いに独立したシステムであり、同一性能となる条件は存在しない。これらを余すことなく考えることにより、システムの多様性が生まれる。

システムトレードは、単独運用や相関を考慮しない並列運用でも、比較的低リスク高効率の資産運用が可能ですが、構成銘柄やシステム間の相関係数を考慮することにより、よりリスクを低減した運用が可能になります。
最近では、新型コロナウイルス禍における将来不安もあってか、株式トレードを始めとする資産運用に関心を持つ若い世代が増えていると見聞きします。

長期に渡って着実に資産を積み上げていくには、何よりも、リスクを可能な限り低減していく姿勢が必要です。高レバレッジのデイトレやFX、仮想通貨、さらにはバイナリーオプションなど、短期に大きく利益を上げられる可能性があるトレード手法や対象は、その一方で非常に高いリスクを背負う必要があります。

パチンコや公営ギャンブル感覚で、自分の射幸心を満たし、億万長者を夢見るために行うのであれば、どのようなトレード手段でもよいでしょう。
しかし、地道に資産を増やし、早期リタイア(FIRE)を目指すのであれば、それなりの方法が必要です。

システムトレード、及びそれらのポートフォリオ運用や合成株価システム運用などは、着実な資産運用のための有力な手法の一つだと考えます。
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「システムトレード」は何故勝てないのか? [システムトレード]

先日、とあるブログを見ていたところ、「システムトレードは勝てない」といった内容の記事がありました。その方は、10年ほど前に半年間ほど検証をした結果、上記の結論に達したとのことです。

ここでは、その真偽について触れるつもりはありません。ただ、そのような結論に至った過程を見ていくと、システムトレードに関するいくつかの「誤解」が見えてきます。
今回は、逆説的ではありますが、表題に掲げた内容について考えてみたいと思います。


1.検証に要する時間

システムトレードについて検証するに当たって、その時間の長さは重要ではありません。確かに、より多くの時間を掛けた方が、より多くの結果を得ることができますが、その全てが有用であるわけではありません。
重要な発見の多くは非常に限られた期間に成されます。ただし、その発見を得るためには、一見何の関係もない多くの無駄が必要です。

これは、偉大な発見を成し得た多くの先人たちが唱えています。偉大な先人たちの足元にも及びませんが、私もまったく同感です。
ある時、突然、それまで分からなかった答えがフッと浮かぶことがあるのは、多くの人も経験したことがあるのではないでしょうか?その背景には、必ず、長く積み上げた経験が生きているのです。

ただし、だからより多くの経験を積まなければならない、というのは、正しくもあり正しくなくもあり、といったところです。
かのニュートンの有名な言葉に、「巨人の肩の上に乗る」という例えがあります。私たちが積むことのできない多くの経験は、先人たちによって蓄積され、体験できるようになっているのです。

2.検証に用いるデータの期間

検証データの期間に関しては、長すぎても短すぎても異論があります。通常は、漠然と10年程度と考えている人が多いのではないでしょうか?
しかし、その根拠は曖昧です。今から10年前を考えた時、それは東日本大震災の年に相当します。そのような特異な年度を、検証の起点にして良いのかという考えもあります。

それよりも短い場合は、アベノミクスやトランプノミクスによる株価高騰の影響が支配的になりますし、それよりも長い場合は、リーマンショックなどの特異点の扱いが問題になります。
検証データ期間が長いほど、より多くの局面を反映することができますが、そのことがシステム開発を難しいものにしていることもまた事実です。

私は、検証期間は特にこだわる必要はないと考えています。ただし、システムが機能する期間は、検証期間の平均2割程度ではないかと思います。
例えば、検証期間を10年とした場合は、その後2年程度しかシステムの機能維持を期待できない、ということです。

この考えに、科学的な裏付けはありません。ただ、80対20の法則に見られるように、経験的には何となくしっくりくるものがあります。
KFシステムクリエイターで作成したトレーディングシステムでも、全検証期間の内、直近2割程度以上は、最適パラメータが変わらない場合が多くあります。

また、「システムトレード 検証と実践」(Pan Rolling刊:ケビン・J・ダービー著)においても、アウトオブサンプルデータとして、全データの10~20%を最適化後の見直し用に取っておくべきとしており、著者推奨のウオークフォワードテストでも、インサンプル期間4年に対して、ウオークフォワード期間(アウトオブサンプル期間)1年(すなわち20%)とすべきとしています。

システムトレード 検証と実践 ──自動売買の再現性と許容リスク (ウィザードブックシリーズ)

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例えば、わずか4年分の検証データで、最初の2年をバックテスト用としてシステム設計に用い、残り2年のデータでシステム性能を検証する、という方法を用いた場合、いくら頑張ったところで、機能するシステムが得られるとは到底考えられないわけです。

3.検証指標の汎用性

トレーディングシステムを設計するに当たって、そのロジック、すなわち売買判定に用いる指標を何にするかは、重要な要素です。
独自の指標を開発する場合もありますが、既存のテクニカル指標を用いることの方が多いかもしれません。

既存のテクニカル指標を用いること自体に、問題があるわけではありません。事実、KFシステムクリエイターにおいても、移動平均やブレイクアウト、RSI等を採用しています。
問題となるのは、それに用いるパラメータはこうあらねばならない、という思い込みです。

例えば、移動平均と株価との関係をシグナルとする売買を考えた時、古くから言われているのは、ゴールデンクロスで買い、デッドクロスで売る、と言った類です。
この場合、それに用いる移動平均の期間にも決まりがあり、大抵は20日移動平均や5日移動平均が用いられたりします。

この20日や5日にも当然深い意味があり、20日は1か月、5日は1週間の立会日数を意味します。すなわち、大抵の人はそのような単位で損益を確認するのだから、その期間を用いるのは至極当然である、というわけです。
だから、それをロジックに採用するに当たっても、それらの期間から大きく逸脱したパラメータは、採用すべきではない、ということになります。

結局、自分だけの売買タイミングでトレードを行っても、他の多くの人たちは20日や5日の移動平均を見て売買しているわけだから、勝てるわけがない、と考えてしまうのです。
でも、よく考えてみましょう。多くの人が同じタイミングで買えば、確かに株価は上がります。一方、そのためには同じタイミングで売る人が必要です。

これって、例えばゴールデンクロスで買いに向かう人がいる一方で、逆にゴールデンクロスで売りに向かう人がいることを意味します。
売り手は、何故このタイミングで売るのでしょう?もちろん、十分な利が乗っているから売るんでしょうが、もしもゴールデンクロスが上昇のサインならば、わざわざこのタイミングで売る必要はないように思います。

その理由は明確です。それは、このタイミングであれば、より多くの売買が成立しやすいからです。多くの持ち株を抱えた売り手にとって、これほど好都合なことはありません。
その後、仮に株価が上昇したとしても、確実に利益を得ることの方が重要なのです。

一般的に、このような著名な方法で収益を上げることは困難とされています。では、人よりも早く仕掛け、人よりも早く手仕舞えばどうでしょう。
理屈では、収益を上げる可能性が高まります。しかし、それは未来予測を行うことと同義であり、実現は困難です。

4.オーバーフィッティング(過剰最適化)

有名な相場格言に、「人の行く裏に道あり花の山」というものがあります。これは、シストレ流に言うならば、「既存指標やパラメータに固執せず制限を取り払えば聖杯が見える」とでもなりましょうか。
システムトレードは、全数検索が大原則だと考えます。できるだけ制約を取り払い、自由な発想で最大限の可能性を追求することにより、光が見えてくるのです。

全銘柄で共通した指標、共通したパラメータで、平均期待値がプラスであるシステムが存在するかどうかは分かりません。しかし、そのような条件を設定すること自体、無用な制約だと考えます。
いくつかの銘柄の株価推移を見るだけでも、それらが大きく異なっていることが分かります。そのような、全くでたらめな推移を、一つの枠に括り付けて制御しようということの方が、無理があります。

もっと自然に考えれば、銘柄ごとに最適な指標があって当然、最適なパラメータが異なって当然なのです。それを無理に一つの枠に押し込めようとするから、歪みが生じます。
その歪みは、聖杯の形を歪め、収益機会を確実に損なっていくのです。

システムトレードで取り得る可能性の極一部しか検証せずに、「システムトレードでは勝てない」と結論付けることはできません。
全ての可能性を検証してみて初めて、システムトレードで勝てるか否かが判明するのです。

しかし、巷では「パラメータの最適化はオーバーフィッティングを生む」と、まことしやかに言われています。このようなことを言う人は、本当に検証を行っているのか疑問です。
そもそも、オーバーフィッティングとは何のことを指すのでしょう?

システム性能が大きく変わってしまう条件の一つに、パラメータの変遷があります。もちろん、これはどのような指標を用いるかによっても違ってくるのですが、大なり小なり、パラメータが変わればシステム性能も変わります。
例えば、移動平均を用いたシステムの場合、移動平均期間の変化幅は1日単位となります。そして、移動平均期間が1日違うだけで、システム性能は変化します。

KFシステムクリエイターでは、例えば2つの移動平均期間を3~150日の間で1日単位で変化させ、最適パラメータを決定します。
その際、パラメータがわずか1日ずれただけで、システム性能が大きく変化することはザラにあります。では、このような条件で得られる、システム性能が最適となるパラメータは、無意味なのでしょうか?

けしてそんなことはありません。確かに、パラメータが1日でもずれれば、性能は大きく損なわれます。しかし、パラメータがずれない限り、性能が大きく変わることはないのです。
そして、実際に検証すれば分かることですが、その最適パラメータは、直近においてずれることはほとんどありません。

それどころか、全検証期間の直近2割以上の長期に渡って、全く変化せずにいることが少なくありません。前述のケビン・J・ダービー氏の言葉を借りるまでもなく、そのようなシステムは、フォワードテストにおいても良好な結果が得られるであろうことが推察できます。

では、ある銘柄で最適パラメータが直近において安定しない場合は、どうすればいいのでしょうか?
答えは簡単です。安定する最適化対象指標を探し、それでもだめなら別のロジックを調べ、それでもだめなら、その銘柄を諦めればいいのです。

システムが安定しない場合に、フィルタ等の条件を付け加えたりする場合がありますが、これは通常、システムの不安定要因として働きます。
ただし、フィルタをシステムと考え、フィルタ単独で評価した際に、正の期待値と十分な安定期間を有する場合は、その限りではありません。

5.システムトレードで勝つには裁量も必要か

これは微妙な命題です。ただし、あながち間違っているわけでもありません。
そもそも、システムトレードにおいて、どこまでをシスティマティックに行うかは人それぞれです。

中には、運用者が行うのはパソコンのスイッチを入れるだけ、というものもあるかもしれませんし、シグナルの発生までをシステムで行い、発注は手動と言うパターンもあります。
ただし、このような事例の場合、裁量が入り込む余地はほとんどありません。

実際に裁量が入ってくる可能性があるのは、建玉数の決定や運用システムの決定等、資金的な制約によるものが多いでしょう。
また、高次のシステムとして、レジームスイッチシステムがありますが、それを自動ではなく手動、すなわち裁量で行う場合もあるかと思います。

結局のところ、システムと呼ばれる部分は多くの場合、シグナルを出すまでであり、それ以降の運用面においては、裁量判断が入ってくる余地が多分にあります。
そもそも、どのシステムを運用に供するかは運用者の判断であり、そのシステムの仕様もまた開発者次第です。

そういった意味で言えば、システムトレードとは言っても、裁量判断が必要であることに違いはありません。では、何を持ってシステムトレードと言うかと申しますと、少なくとも入力(株価)に対して出力(売買シグナル)が唯一定まること、に尽きるのではないかと思います。

もしも、システムによって出力された売買データに対して、運用者が勝手に違う売買行動を取ったとしたら、それはもはやシステムトレードとは言えません。
しかし、レジームに応じて運用システムを変更し、その変更ルールが明確であるならば、それはシステムトレードであり、けして裁量ということではありません。


結局、システムトレードで勝てない多くの場合は、「十分な検証が行われなかったから」の一言に尽きるかと思います。
もちろん、運用面での問題もありますが、それらはむしろ裁量判断の帰結ということになります。

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株価推移間の相関分析と株式ポートフォリオの設計 [投資・経済全般]

先月は、「相関係数算出ツール株式版」の改修作業に掛かりきりになり、当ブログの更新にまで手が回らない状況でした。同ツールは無事完成し、ココナラにサービスとして出品いたしました。
ツールの詳細につきましては、ココナラブログにて取扱説明書等を公開しておりますので、興味のある方はそちらをご覧ください。

この相関係数算出ツール株式版ですが、元々は合成システムを作成するためにシステム同士の相関を調べる、「システム間相関係数算出ツール」が原型となっています。
しかし、あれもこれもと機能を詰め込みすぎたために、かなり大掛かりなものとなってしまいました。

今回は、本ツールを用いた株式合成について、その意義と効果を述べたいと思います。

先日、何気なく夜のニュースを見ていたところ、FIRE(ファイア)を目指す人々の特集を放送していました。FIREとは「Financial Independence, Retire Early」の略で、経済的自立による早期リタイアを意味します。
何年か前には「億り人」という言葉が世間を賑わしたことがありましたが、FIREはそれとは異なる概念です。

億り人は、投資によって短期間で一気に億を超える資産を築き上げた人で、それを達成するための手法として、主にデイトレやFX、株式への集中投資などを用います。
短期間で大きなリターンを得るために、高レバレッジでの運用が必要であり、必然的にリスクは増大します。

一方のFIREは、高リターンは望まず低リスクで安定した資産形成を目指します。例えば、普通に働いていたらあと30年で定年になるところを、20年でリタイアすることを目標とします。
リタイアの条件としては、その後も投資活動を継続することで、資産を減らさずに生活水準を維持し続けることです。

FIREについてはいろいろと興味深いところであり、もちろん課題も多くあるのですが、それらについてはいつか日を改めて考える機会を持ちたいと思います。
今は、このような動きが湧き上がり始めている、ということをご理解ください。

さて、この新たなムーブメントの特徴としては、かつての定期預金のような堅実な資産形成を目指す、というものです。しかし、残念ながら現在では、無リスクで年間数パーセント以上の利益が得られる金融商品は存在しません。
そこで、多少のリスクを背負っても、株式投資等でリターンを得ることが必要になります。

その方法としては、様々なものがあります。長期保有による値上がりや配当狙い、リスク分散のためのポートフォリオ形成、システムトレード等によるアクティブ運用、あるいは投資信託や外国株式投資など、多くの方法の中から自分に見合った手法を見出し、実践する必要があります。

いずれにしても最も重要なのは、FIREを達成した以降において、それを達成するために用いて来た投資手法が機能し続けるかどうかということです。
FIREを達成しても、それ以降で負けが込んで元本を食いつぶすようでは意味がありません。

例えば、私たちが株を買い、それを長期に渡って保有する場合、どのような銘柄を選択するでしょう。大抵は、東証1部上場の大型株やハイテク株などを選ぶのではないでしょうか。
では、それらの株価は安定して上昇しているかというと、必ずしもそうではないことが分かります。

一般に株価推移のバラツキは非常に大きく、平均的にはプラスで推移したとしても、その過程においては大きく下落する場面が多々あります。
それでもいずれは上昇すると信じて持ち堪える方も多いでしょうが、一歩間違えると塩漬けになってしまいます。10~20年前にはよもや倒産するわけがないと信じられていた大企業が、株式市場からの退場を迫られる事例も少なくありません。

ならばどうすべきかと言うと、一つはシステムトレードに代表されるアクティブ運用を行うこと、そしてもう一つは運用リスクが低減するようポートフォリオを組むことです。
システムトレードにつきましては、これまで何度も述べてきたため、ここでは触れません。以降では、株式でポートフォリオを組むことについて考えます。

株式でポートフォリオを組む場合、通常は関連の小さい(と思われる)セクタに所属する銘柄をそれぞれピックアップして組み合わせます。
あるいは、セクタに関係なく、相関係数が小さい銘柄同士を組み合わせるかもしれません。

そもそも、関連が小さいセクタであるならば、その構成銘柄の株価推移も他セクタと異なるはずです。これは言い換えれば、それらの株価推移間の相関が小さいことを言っているに過ぎません。
すなわち、セクタを云々するまでもなく、株価推移同士の相関係数を調べれば事足ります。

通常、株価推移同士の相関係数算出には株価騰落率を用います。しかし、株価騰落率を用いた相関係数は、時として目的に適う結果を得ることができません。
次図は、手持ちの約100銘柄の株価データにおける騰落率間の相関係数の中で、最も小さくなる組み合わせを示した散布図です。
散布図_20210505a.png

分析期間は直近約11年間で、第一銘柄は9399ビートHD、第二銘柄は7974任天堂、相関係数は0.0664となっています。
実はこの組み合わせの相関係数が小さいことには、理由があります。それは次図を見れば明らかです。
株価推移_20210505b.png

これは、両者の株価推移を示したチャートですが、ビートHDが右肩下がり、任天堂が右肩上がりであることが分かります。すなわち、騰落率を用いた相関係数では、このような関係にある場合に、値が小さくなる傾向があるのです。
これらの銘柄を組み合わせた場合、任天堂の上昇をビートHDの下落がつぶしてしまい、全くの逆効果となります。

では、どうすればよいのでしょうか?
その答えは、上のチャートから明らかです。それは、株価推移の回帰直線からの乖離、すなわち残差同士の相関係数を求めてやれば良いのです。そのようにしてこの組み合わせの相関係数を求めると、0.5004という比較的大きな値になります。

株価の残差同士の相関係数は、比較的多くの組み合わせで逆相関となります。これは、騰落率を用いた場合では得られなかった傾向で、本方法の最大のメリットです。
逆相関の関係が比較的多数、得られることにより、組み合わせの幅が広がり、株式ポートフォリオの設計が容易になります。

次図は、その相関係数が最小、すなわち強い逆相関になっている事例です。第一銘柄は6754アンリツ、第二銘柄は9432日本電信電話です。両者の残差間の分布がきれいな逆相関になっていることが分かります。
なお、この時の相関係数は-0.7998です。
散布図_20210505c.png

続いて、両者の株価推移を次図に示します。株価は共に右肩上がりであり、両者を組み合わせてもその傾向は維持されます。
アンリツのEERは0.3717、RSQは58.63%、日本電信電話のEERは0.7512、RSQは85.27%となっています。
株価推移_20210505d.png

これらを1対1で合成した結果が次図となります。
合成銘柄_株価推移_20210505e.png

非常に直線性が高く、リスクが低減されていることが分かります。実際、EERは1.5070、RSQは95.88%に大幅増加しています。
優秀なトレーディングシステムにおける資産カーブ推移とほとんど変わらず、単に2つの銘柄を足し合わせただけでこれだけのロバスト性が得られることは、不思議な感があります。

では、これと他銘柄とを更に組み合わせて、より低リスクなポートフォリオを実現出来るでしょうか。前述の手持ち銘柄で確認したところ、2802味の素との相関係数が-0.3936と逆相関の関係にあることが分かりました。
それらのチャートを次図に示します。
株価推移_20210505f.png

これを見ると、味の素の株価推移は大きくうねっており、両者を組み合わせても良好な結果は期待できない感じがしますが、実際に両者を合成してみました。
なお、株価は味の素が概ね半分の水準ですので、組み込み比率を2倍にしています。
合成銘柄_株価推移_20210505g.png

予想通り、合成前よりも悪い結果となりました。EERは0.7564、RSQは85.44%に低下しています。もっとも、味の素のEERが0.3010、RSQが48.16%でしたので、それを考えれば妥当です。
結局、株式ポートフォリオを設計するためには、相関係数だけで判断するのではなく、併せてEERやRSQ等、元々の株価推移の品質を考慮する必要があることが分かります。

ただし、このアプローチは定量的な評価が可能であり、結果の判定も容易であることから、非常に有力な手法になるのではないかと思います。
更に、このようにして得られた合成銘柄をトレーディングシステムに組み入れることにより、よりリスクを低減した運用が可能になるものと考えます。

特に、株価の長期保有だけでは、ある時点で株価すなわち資産が頭打ちになる可能性があります。そのような時に、売りでも収益を上げられる、あるいは株価下落時にキャッシュポジションに転じることができるトレーディングシステムと組み合わせれば、より長期に渡る運用が可能になるかもしれません。

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