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アンダルシアの虹 [雑感]

この魅惑的なタイトルに惹かれてNHKオンデマンドにアクセスしたのは、1カ月くらい前のことでしょうか?
そこに映し出された映像は、古めかしくて懐かしく、それでいて新鮮なものでした。

これは一体何なんでしょう?ドキュメンタリーのようであり、そうでないようでもある。
主人公の栄子を通して見たスペイン・アンダルシア地方の抒情的な光景が、美しい調べと共に画面一杯に広がります。

しかし、その主役はその光景ではなく、ましてや栄子自身でもありません。栄子と関わる多くの「ひと」が、この映像作品の主役であり、栄子の目と耳を通して彼らジプシーの生きざまを、ごく自然に映し出しているのです。

彼らは演じているようであって、演じていないようでもある。この背反的な演出が、この作品に不思議な揺らぎをもたらしているかのようです。
それは1/f揺らぎのように、心地よい感覚を誘います。

主人公の栄子を演じているのは、中尾幸世さん。そして作・演出は、佐々木昭一郎氏。これは、NHKが1980年代初頭に制作したドラマ「川(リバー)」3部作の2作目であり、1作目はイタリア、3作目はスロバキアを舞台にしています。
主人公の設定はほとんど同じ。当然、中尾さん、佐々木氏の作品です。

栄子はピアノ調律師であり、1作目「川の流れはバイオリンの音」では、壊してしまった妹のバイオリンを修理するために、ポー川が流れるイタリアの町を訪れます。
そこで様々な「ひと」と出会い、様々な人生に立ち会います。その流れは、2作目以降にも引き継がれます。

3部作に共通するのは、子供、老人、そして生と死。栄子は必ず子供と関わり、老人と関わり、そして彼らの生と死を見つめていきます。
その時代、その地方の社会的背景も絡み合って、物語は栄子を通じて様々な「ひと」の間を行き来しながら進行します。

劇中に挿入される、栄子が出会った「ひと」のデッサン、そして栄子のピアノ演奏。これらは全て、中尾さん自らが行なっています。
印象的なのが、劇中で調律に用いるA(ラ)の音叉。これは栄子のAであり、象徴です。事実、1作目では栄子はA子でした。

3作目「春・音の光」の最後で、栄子はその音叉をラド少年にあげます。これは、栄子の旅がそこで終わることを、そしてラド少年に引き継がれたことを表しているのではないでしょうか。
その後ラド少年は、サーカスで各地を転々とする両親を追い求めて、旅に出るのです。

栄子を演じる中尾さんの、ちょっと気恥ずかしそうな口調、射るような眼差し、そしてはにかんだような笑顔。
それらと短いセリフ回し、独特の「間」が、映像にリアリティをもたらし、ドキュメンタリーのような説得力を生み出しています。

作品を観終えた後の充足感、そして長く続く余韻は、佐々木氏の演出と中尾さんのキャラクターあってのものでしょう。
これら3作以前に、栄子(榮子)の生い立ちを描いた「四季・ユートピアノ」が、制作されています。ただし、設定には若干の食い違いがあるように思います。

それ以外の佐々木作品も、NHKオンデマンドで配信されており、いずれも特選見放題パックで視聴することができます。
あるいは、単品210円での視聴もできますので、興味のある方はぜひ一度ご覧になってみてはいかがでしょう。

ちなみに、中尾さんはこれらの作品を最後に、一般人としての道を歩んでいます。NHK朝ドラのヒロインにという話もあったようですが、お断りしたそうです。
現在は50代半ばくらいなんでしょうか?朗読家として活躍されているようで、ネット上にファンサイトが存在します。

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