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公差の限界 [雑感]

会社勤めをしていた頃、MO用磁気ヘッドのテストラン(量産試作)段階で、サスペンションのバネ圧が安定しないという問題につまづいていました。
バネ圧を決定する因子はいくつかあるのですが、当初はそれらの公差を極限まで狭めることで、最終的なバネ圧のバラツキを公差内に収めようとしました。

バネ圧に影響する因子は、ざっと挙げただけでも、素材の寸法(幅、長さ、厚さ)、素材の材質、素材の初期曲げ条件(プレス圧、プレス位置、プレス量)、熱処理条件、接着用樹脂の条件(材質、塗布量、塗布位置、硬化条件)、などがあり、これらの組み合わせによって、最終的なバネ圧のバラツキを±10%の公差内に収めようとしていたのです。

しかし、さすがにこれだけの要因が複雑に絡み合ってくると、普通に組み立てたのでは全く公差内に入らず、ほとんど全品のバネ圧を手作業で修正する、という工程が必要でした。
それで特性が安定すれば若干のコスト増だけで済むのですが、実は経時的にバネ圧が変化するという厄介な問題が生じていました。

しかも、無調整品にはあまりバネ圧の変化がなく、調整品に顕著な変化が現れます。その原因は調整部に生じる応力時効なのですが、それを見越してバネ圧を調整することはかなり厄介です。
現実的な対応として、調整後に熱処理を行なって応力を開放し、バネ圧を安定させるという方法が採られたのですが、如何せん歩留りが悪過ぎます。

そこで、不良品を更に調整して熱処理を行うという泥沼的な方法も検討されましたが、さすがにそれはできません。
何故ならば、何度もバネ圧を調整すると、サスペンションそのものがヘタってしまい、もはやバネの用を成さなくなるからです。

結局、当然のことながら、まずは各部品、各作業の公差を徹底的に絞り込もうということになりました。
さらに、素材はum単位で管理し層別を行なうと共に、他の作業も徹底的に見直しました。

しかし、結果は上手くいきません。多少は歩留まりが向上したものの、まだ不良品の方が多いという状況でした。
まあ、それは当然といえば当然の結果です。

何故なら、誤差伝播の理論によれば、合成誤差は概ね各因子の誤差の2乗平方和になるからです。それに基いて各因子に割り当てられる誤差を計算すると、どんな加工精度を持ってしても実現不可能な数値しか得られません。

そもそも、各因子が最終的なバネ圧にどのように影響しているのかすら分かりません。そこで、当時社内で注目され始めていた、タグチメソッドを用いることにいたしました。
タグチメソッドについては、現在でこそ大きな書店の品質管理コーナーに何冊か並ぶようになりましたが、当時は田口玄一先生の著書や、研究者の論文等で学ぶしかありませんでした。

品質保証部の後押しを受けながら、試行錯誤を繰り返した結果、ようやくバネ圧に大きな影響を与える因子とその条件が分かりました。
そして、その条件に沿うように製造方法を決定し、品質管理を行なったところ、バネ圧の歩留りは劇的に向上しました。

タグチメソッドは、ロバスト設計という概念で構成されています。ある製品に制御可能な入力を与えた時、目標とする特性の変化がロバスト(直線)になるように製品を設計する、ということです。

そのために、目標特性に影響を与えることが想定される複数の因子の中央値と、上限、下限の値の様々な組み合わせで試作を行ない、その結果、目標特性がどのように変化するのかを測定します。
そして、その目標特性のバラツキが最も小さくなる(ロバスト性が高くなる)ように、各因子の値を決定するわけです。

タグチメソッドでは、コントロール可能な因子(制御因子)の他に、コントロールできない因子(ノイズ)を加えることで、安定した品質を得ることができるとされています。
例えば前述したバネ圧の経時変化の問題も、これをノイズとして設定することで、ノイズに強い、すなわち経時変化しにくい品質を得ることができたわけです。

さて、ロバスト性とかバラツキとかということを考えると、これは何やら理想的な資産カーブのようにも見えてきます。
ひょっとしたら、タグチメソッドをシステムトレードに応用できるのではないか、と以前から考えているのですが、なかなか取っ掛かりがつかめません。

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コメント 5

たかとび

さやとりみたいなものでしょうか?
一方を売って一方を買って、相場がどっちに動いても
鞘が縮まれば安定的に利益が出る。。

by たかとび (2010-06-04 10:47) 

Kフロー

たかとびさん、こんにちは。

鞘取りとはちょっと違うんですけど、でもイメージとしてはマーケットニュートラルみたいなものでしょうか。
まだ真剣に検討を始めているわけではありませんので、はっきりとは分からないのですが。

by Kフロー (2010-06-04 11:00) 

Kフロー

marbeeさん、こんにちは。
いつもありがとうございます。

by Kフロー (2010-06-04 11:00) 

たかとび

土屋氏とかも裁定取引されてるんですよね。。
歪みをとるってことでしょうが、難しそうです。。
by たかとび (2010-06-04 14:20) 

Kフロー

土屋氏ご本人が実際に売買されているかどうかは存じ上げませんが、狙って歪を取りに行くというのは、本当に大変なことだと思います。
それだからこそ、確実な収益が得られるのかもしれません。

by Kフロー (2010-06-04 15:50) 

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