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システム寿命について考える(3) [システムトレード]

前回は、システム寿命を考えるに当たって、重要な2つのステップがあることを述べました。一つは、そのシステムの特定パラメータにおける運用を継続するかどうかの判断、すなわち機能判定です。もう一つは、そのシステムのロジックを運用し続けるかという判断です。

システムの最適パラメータは、本来、移ろいやすいものです。特に、個別株式のシステムにおいては、最適パラメータは対象銘柄の業績などに左右されます。
企業業績は変化するのが常ですから、そのシステムの最適パラメータもまた、変化すると考えることが自然です。

したがって、個別株式のシステムトレードは成立し難いという主張が生じるのですが、それはもっともな話です。個別株式でもシステムトレードが成立するためには、その企業の業績や業態、周囲の見る目がぶれない事が重要です。そのような企業群を、著名なシステムトレーダーである土屋賢三氏は「ユニバース」と呼んでいます(これは私なりの解釈であり、実際は違うのかもしれません)。

ユニバースではない銘柄ではシステムを組むべきではない、という考えは、第一のステップのみを考慮した場合の発想です。
そのため、ユニバースに対し、多少のブレが生じても良いように、広いパラメータ分布で優れた性能が期待できるようなシステムを組むという手法が推奨されます。

これを、静的システム(スタティックシステム)と呼ぶことにします。このタイプのシステムは、運用開始から機能停止に至るまでの期間が長く、安定した運用が期待できます。
その一方、銘柄の選択肢が限られ、また、機能停止に至ったらそれ以上の運用はできません。さらには、爆発的な収益増加も期待できません。

静的システムは、パラメータが重要な要素であるシステムと考えることができます。パラメータとロジックは同等の重みを持ち、いずれか一方が欠けてもシステムとして機能しません。
すなわち、運用開始時の条件で運用を続けた後、機能判定でNGが出ると、それ以降の修正運用は難しくなります。

一方、最適パラメータのブレを容認し、機能停止の度に再修正(再最適化)を繰り返していくシステムを、動的システム(ダイナミックシステム)と呼ぶことにします。
これは、第二のステップまでを考慮したシステム、ということになります。

このタイプのシステムは、運用開始から機能停止に至るまでの期間が、比較的短くなります。その代わり、幅広い銘柄でシステムを運用することができます。
再修正の度に損失を増やし、やがてシステムが完全に停止してしまう(ロジックが機能しなくなる)場合もありますが、その一方で、短期間に爆発的な収益を上げる場合もあります。

すなわち、システムの機能判定や再修正ルールまでを含めた全体を、一つのシステムと見なすとも考えることができます。
その場合、そのシステムを運用し続ける際に期待される性能(通算性能)は、直近までの期間で最適化したシステムの性能とは異なったものとなります。

たいていは、システムの繰り返し運用により、通算性能は落ちていくものですが、上手く「ツボ」に嵌ると、それまでの停滞を一気に吹き飛ばしてくれることがあります。
結局のところ、統計的に見た通算性能を求めてみないと、動的システムの期待値は分からないということになりますが、現時点でそこまで厳密な検討は行なっておりません。

簡易的な評価方法としては、8月6日のコラムで示しましたように、過去に遡ってそこから現在に至るまでのシステム寿命の判定を、繰り返し行なっていくという方法があります。
その際、ロバスト性の高いシステムであれば、過去の最適パラメータが現在でも通用することになります。そのようなシステムは、静的システムとして捉えてもいいのかもしれません。

さて、昨日も話しましたように、機能判定基準をどのように設定するかが、システム寿命を決定する上での重要な項目になります。

静的システムの場合は、一度きりのチャンスしかないわけですから、機能判定基準は緩めに設定する必要があります。
その分、機能停止に至るまでにより長い猶予期間が与えられることになります。

機能停止に至る前に、資産カーブが反転して回復すれば良いのですが、回復せずに機能停止に至った場合は、より多くの損失(逸失利益)を被る事になります。

資産カーブが回復するかどうかは、誰にも分かりません。分かるのは、機能判定基準に達するまでの下落幅です。これを差し引いてもなお、そのシステムで十分な利益が得られているのなら、そのシステムの運用は成功だったと言えるでしょう。

すなわち、機能判定基準が緩くても、それを補って余りあるほどの長期間に渡って、そのシステムを運用し続けられるのであれば、システムが最後に息を引き取る間際に被る損失は、それまでに上げてきた収益で十分に賄える事になります。

一方、システムの機能判定基準を厳しくしすぎると、システムが十分な収益を上げない内に機能停止に陥ってしまい、結局、損失の方が勝ってしまうことになります。
その後、机上運用を続けていたら、いつの間にかシステムが回復していた、などということになると、当初設定した機能判定基準が適切ではなかった、ということになってしまいます。

すなわち、静的システムにおける機能判定基準の設定は、そのシステム運用の明暗を分けるほどの、重要な項目であると言えます。
それに対する明確な回答は、未だに得られていませんし、今後も得られるかどうか分かりません。

それに対して、動的システムの場合は、何度もチャンスがあるわけですから、機能判定基準への要求は、静的システムの場合ほどには厳しくなりません。
これは、通常のトレードにおけるストップ基準と同程度のもの、と捉えてもいいのかもしれません。

そうは言いましても、全く適当に決めても良いというわけにはいきません。機能判定基準の決定の背景には、客観的かつ合理的な理由が必要です。
そのための一つが、資産カーブの標準誤差を用いる方法です。

資産カーブの推移が自然の理に適ったもの、すなわち、統計的に意味のあるものならば、資産カーブ上の各点の分布は、その回帰直線を中心とした正規分布となります。
その場合、回帰直線から標準誤差分離れた領域に入る点の数は全体の68%、標準誤差の2倍分離れた領域に入る点の数は全体の95%となります。

すなわち、その資産カーブの元となるシステムが統計的に意味のあるものならば、資産カーブが標準誤差の2倍分以上離れる確率は5%に満たない、ということになります。
そこで、その5%に入ってしまった場合は、統計的な前提が崩れた、すなわち、システムが機能停止したと判断するわけです。

もっとも、それは5%の確率で自然に起こり得る現象ですから、本当にシステムの機能が停止したのかどうかは、その時点では分かりません。
しかし、だからと言って、では1%なら良いのか、0.1%なら大丈夫だろう、などと考えることは無意味です。そこに達するまでに、傷口は確実に広がっていくのです。

それならば、5%の水準で機能停止判断を下して、その時点で新たにシステムを再構築、すなわち再最適化した方が、新たな統計的な枠組みの中で資産が推移することを期待できます。
その繰り返しの中で、統計的な優位性を維持しながら、システム運用を継続していくわけです。

したがって、厳密に言えば、動的システムであっても、そのシステムが統計的に意味がある、すなわち回帰直線の周りに資産カーブが正規分布している、という前提が必要です。
その分布を求めるのは大変ですが、簡易的には、標準誤差範囲内に68%前後、標準誤差の2倍範囲内に95%前後、の資産残高が入るかどうかを確認すればいいでしょう。

ちなみに、システムが正規分布に従っているかどうかの直接的な確認方法ですが、随分以前に、日経平均株価のトレンドライン周りの度数分布を示したことがありました。それと同様のことを、回帰直線の周りで行えばいいわけです。

なお、KFシステムクリエイターでは、判定基準を95%よりももう少し厳しく、すなわち、標準誤差の2倍よりも若干大きくしています。
これは、若干のオーバーシュートを見越してのものですが、今、改めて考えてみると、見直しの余地がありそうです。

以上、3回に渡って、トレーディングシステムの寿命について考察してきました。議論が十分に尽くされたとは考えていませんが、システムを運用するに当たっての、一つの指針になったとすれば幸いです。


PS.お盆休みのため、明日と明後日のコラムは休載させていただきます。今週の投資成績およびトレンド予報は、休み明けの月曜日に掲載する予定ですので、あらかじめご了承ください。

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