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システム寿命について考える(2) [システムトレード]

私たちは、システムあるいはもっと広義なトレード手法について、運用を継続するための客観的な判断材料を持ち合わせているでしょうか。
多くの場合は、裁量に任せた運用となっているのではないかと思います。

ここで注意すべきことは、それは単なる損切りとは異なるということです。損切りは、1回1回のトレードに対して行う行為です。それに対して、システムそのものの運用を継続するかどうかの判断は、それを停止すると判断した以降は、それと全く同一条件におけるトレードを一切行なわない、ということです。

例えば、銘柄Aのトレードにおいて、5日移動平均が25日移動平均を上回ったら買い、25日移動平均を下回ったら売りというルールで、運用を継続していたとします。
ところが、当初は順調に収益を上げていたものの、ある時期以降、収益が上がらなくなり、損失が増えてきたものとします。

そこで、トレーダーは、そのルールでの運用を継続すべきかどうか、考えることになります。そこには、2つのステップを介在させることができます。

一つは、そのシステムを運用継続するか停止するかを判断するステップです。そのためには、事前にストップ基準を明確化しておく必要があります。
例えば、ドローダウンが20%を超えたらストップするとか、資産カーブが標準誤差の2倍以上下落したらストップするといった、何らかの客観的なルールに基づいた判定基準を設けます。

通常は、このステップまでしか考えません。すなわち、その場合、何があろうとその運用ルールは、それで終わりです。
銘柄Aに関するその運用ルールは、二度と日の目を見ることはありません。

しかし、その運用ルールの根底に流れるロジックは、5日移動平均と25日移動平均の交差なのでしょうか。これは、ロジックの一部を表現しているに過ぎないのではないでしょうか。
すなわち、5日や25日といったファクターは、単なるパラメータの一つに過ぎず、もっと本質的な部分は2つの移動平均の交差にあると考えるわけです。

永遠不変なトレーディングシステムは存在しません。最適パラメータが全く変化することなく、未来永劫、機能し続けるシステムが存在すると考える方が無理があり、パラメータを全ての銘柄で同一にしても機能するロジックでなければならない、という考えには賛同できません。

銘柄には様々な個性があり、あるロジックが機能するための最適なパラメータは、対象銘柄の個性を反映している、と考える方が自然です。
すなわち、移動平均の交差を判断材料にする、などといった基本的な概念こそが、トレーディングシステムのロジックであり、パラメータは単なる変数に過ぎないわけです。

また、銘柄の個性は、時間の経過と共に変化していきます。それは、対象企業の業績や業態、それが置かれた位置付けが変化しているためであり、それらの変化に合わせて、システムの最適パラメータも変化していくと考えるべきです。

したがって、パラメータ分布はなだらかな方が良い、なだらかでなければいけない、といった考えが生じることになります。
なぜなら、銘柄の個性の変化によって生じる最適パラメータの変化は、小さいほうが良いと、直感的には思えるからです。

しかし、システムの本質的な寿命を考える場合は、その限りではありません。むしろ、ある局面において、最適パラメータが大きく変化した方が、システム運用の継続にとっては有利に働く場合があります(これについては後述します)。

昨日のコラムでお話した「同一のシステム」という概念は、システム設計で調整できる可変パラメータを除いた、基本的なロジックが同一である、ということに他なりません。
すなわち、例えば移動平均の交差を判断材料にするシステムの場合、そのパラメータが5日と25日であろうが、6日と10日であろうが、それらは全て同一のシステムと考えるわけです。

要するに、5日と25日の移動平均の交差で売買するという運用ルールに基づいたシステムは、その後、損失が続いて運用停止の事態に陥ったとしても、再最適化を行なうことで運用を再開できる可能性があるわけです。

その際、新しいパラメータは、5日と25日以外のものになるでしょう。もしもパラメータが変わらなければ、そのシステムは停止状態から抜け出すことができないからです。
あるいは、パラメータの変化はあるものの、それが小さい場合は、その時は停止状態から抜け出すことができたとしても、すぐに再び停止状態に陥る可能性が高くなります。

システムが停止する最も多いパターンは、資産カーブが下降を始めた場合です。このような状態でパラメータが多少変わったとしても、資産カーブの下降の程度が変わるだけで、それが上向きに転じることはほとんどありません。

すなわち、一旦機能停止に陥ったシステムを復活させるには、最適パラメータの大幅な変化が必要になります。
それゆえ、なだらかなパラメータ分布は、むしろ弊害になる場合が多くなります。そのようなシステムは、一度機能停止に陥ると、復活は困難です。

話を整理しますと、一般的に言われるシステムの(機能)停止というのは、ある特定のパラメータが使用できなくなることであり、システムのロジックそのものが使えなくなるわけではありません。
すなわち、パラメータを変えてやれば、そのシステムは再び息を吹き返す可能性があるわけです。それが2つ目のステップということになります。

そうは言いましても、全く適当にパラメータを設定して良いというわけではありません。少なくとも、客観的にルール化された方法で、最適パラメータを決定してやらなければなりません。
そうしなければ、再最適化を行なうにあたり、単なる延命処置だけを目的にすることもできてしまいます。

そのような不適切な方法で延命したシステムは、システム停止の判定基準が甘くなり、運用を続けることで大きな損失を被る可能性が高くなります。
客観的かつ厳密に決定された最適パラメータというのは、その時点における最高のシステム性能を示すと共に、厳しい機能判定基準を有したものでなければなりません。

そのようなシステムであるからこそ、一旦機能停止に陥ったとしても、再最適化という敗者復活資格を与えられるのです。
最適パラメータを客観的に決定することの重要性は、正にこの点にあります。

客観的に設定された最適パラメータは、テスト期間を開始日から徐々に延ばしていった時に、必ず一意的に決まります。これは、当たり前のことですが、極めて重要な事でもあります。

あるシステムを運用するに当たって、例えば当初テスト期間を3年間にした場合と、テスト開始日を変えずに5年間にした場合とで、一般に最適パラメータは異なります。
しかし、その後、何度もの再最適化を経て、十分長い期間が経過したとすると、両者の最適パラメータは同じ値に収束するでしょう。あるいは、ほぼ同じタイミングで、完全停止に陥るでしょう。

だからこそ、システムの客観性が保証されているということが言えるわけです。テスト開始日が同じであれば、初期テスト期間に違いがあっても、機能するロジックは機能し続けるし、停止するロジックは停止します。

このようなシステムを運用し続ける過程で、初期状態の違いにより、途中の資産カーブの推移には異なった部分が生じるでしょうが、最終的には同じ推移に落着いてくるでしょう。

実際には、テスト期間を適当に選択することはないでしょうから、初期テスト期間を例えば3年間に固定して寿命評価を行なうことになります。
上の議論は、それが5年間であっても問題ないということを示すためのものです。

そのようにして、過去からシステムの寿命評価を継続してきた結果、現在において完全停止に陥っていなければ、そのシステムの最適パラメータを運用開始直前の日付で決定することの、合理的な妥当性が得られることになります。

システム寿命についての大まかな流れは、これまで述べてきた通りです。実際にシステム寿命を評価するためには、客観的なパラメータ設定と共に、客観的な機能判定基準を設ける必要があります。
機能判定基準の設定に当たっては、次の点に注意する必要があります。

もしも、システムの機能判定基準を厳しくすれば、再最適化の頻度が増すでしょう。しかし、個々のシステム運用においては、損失は限定的になります。
一方、システムの機能判定基準を緩くすれば、再最適化の頻度は減少しますが、個々のシステム運用における逸失利益は増大します。

これらについての考え方は、明日のコラムで述べたいと思います。

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