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株価予測は可能でしょうか? [雑感]

「株価は予測できるのでしょうか?」

私は今まで何度もこの疑問を提示し、そして否定してきました。しかし、その理由に関しては、「未来は決まっていないから」程度のことしか述べてこなかったように思います。
今回は、この株価予測性について、考えてみたいと思います。

まず、「未来を予測する」ということについて考えてみます。

例えば、自然科学においては、未来予測はごく普通に行なわれています。天体の運行はニュートン力学の方程式によって記述され、かなり正確に将来を予測できます。
100年後に地球と木星との位置関係がどうなっているかなどは、ほとんど誤差なく予測できるでしょう。

また、時速100kmで高速道路を走行し続ける自動車が、1時間後にどの位置にいるかについても、かなり正確に特定することができます。
このように、物理や工学の分野では、未来を決定論的に記述することが当たり前のようになっています。

もちろん、それは、その原理が明確になっているからに他なりません。そして、その原理そのものが、古典物理学のような決定論であることが必要となります。
原理が明確であっても、その対象が非常に多数の物質から成り立っているような場合には、決定論的な結果は得られなくなります。

例えば、パチンコの玉がパチンコ台の中でどのように動くかを、完全に決定することはできないでしょう。
パチンコの玉の形状や重さ、釘の位置や弾性、形状、バネの強さ等、あらゆるデータを正確に測定すれば不可能ではないと思われるかもしれませんが、できないものはできないのです。

しかもそれは、工学的にできないのではなく、物理的にできないのです。言い方を変えれば、そのような予測ができないということは、現在の物理学において証明されているのです。
それは、不確定性原理という名で呼ばれています。

不確定性原理とは、1927年に物理学者のハイゼンベルクが提唱した理論であり、運動量と位置、あるいはエネルギーと時間のいずれか一方の物理量を決定すると、もう一方の物理量は不確定になってしまうというものです。

実は、面白いことに、この不確定の度合も定式化されています。それは、運動量×位置、あるいはエネルギー×時間が、ある一定の微小な値になるというものです。
したがって、例えば運動量を厳密に決定すればするほど、位置の不確定さが増大するということになります。

SFみたいな話かと思われるかもしれませんが、実は、この原理なしには今のコンピュータ社会は成り立ちません。
コンピュータに欠かせないトランジスタの動作原理が、まさにこの不確定性原理の上に成り立っているのです。

しかし、そのような量子力学的な原理が、巨視的なパチンコ玉の動きをも支配してしまうものなのでしょうか。そのような疑問は当然です。
そこで、話を簡単にするために、一本の釘の上にパチンコ玉をまっすぐに落とし、それが釘の上で何回跳ね返るかを考えます。

それが無限に続くわけがないことは、誰もが認めるでしょう。また、パチンコ玉が最終的に釘の上で静止することもありません。
どんなに条件をコントロールしたとしても、最終的にパチンコ玉は釘の右か左のいずれかの方向に落ちてしまいます。

たとえパチンコ玉の表面の原子の1個と、釘の表面の原子の1個とが完全に正面衝突したとしても、その跳ね返り方は、不確実性原理によって一定とはなりません。
それにカオス的効果が重なることで、パチンコ玉はせいぜい数回程度の跳ね返りで釘から落下してしまうのです。

これが、複数のパチンコ玉や釘の間での相互作用ということになると、結果はより複雑になるでしょう。
では、複数のパチンコ玉が最終的に落下する位置は、全くランダムに決まってしまうのでしょうか。

1個のパチンコ玉が、最終的にどこに落下するかを特定することは困難です。しかし、数多くのパチンコ玉を1個ずつ一定条件で打っていった時、最終的にはある地点に落下数のピークを持った分布が出来上がります。

その分布の各地点における落下数の割合を調べることで、「その場所にパチンコ玉が落ちる確率は何%だ」などと言うことができます。
すなわち、ニュートン力学などの決定論も含めて、厳密にはすべて、未来はこの確率で論じられることになります。

ちなみに、ニュートン力学においては天体運行は決定論的に予測できると言いましたが、じつはこれも正確には正しくありません。
正確に予測できるのは、あくまで二体間の運動だけです。三体あるいはそれ以上の対象の動きを一度に予測することは困難です。

これは、物理学というよりは数学上の問題なのですが、対象が三体以上になりますと、それらの運動を記述する方程式は、非線型微分方程式というものになります。
詳しい説明は避けますが、この非線型微分方程式というものは、一般にはその解を解析的に(数式処理だけで)求めることはできないのです。

そして、近年研究が進んでいるカオス理論によれば、一部の非線型微分方程式の解は、初期条件のちょっとした違いによって大きく異なってくる場合があることが分かってきました。
すなわち、どんなに厳密なモデルを作り上げたとしても、それが非線形モデルであった場合、初期条件がちょっと違っただけで、その結果が大きく異なってくる可能性が高いのです。

以上のように、物理的に考えても、未来はせいぜい確率的にしか予測できないことが分かります。「それならそれでいいし、株価予測とはそもそもそのようなものだ」とおっしゃるかもしれません。
しかし、厳密に対象に影響を及ぼすであろう事象を全て考慮しても、「その程度」なのです。

冒頭に例示した自動車の走行についても、本来であれば、途中で渋滞に会ったりエンジンが故障したりする可能性などを考えないといけません。
そうすると、1時間後にその車がいる位置の確率分布は、思った以上になだらかなものになっているかもしれません。

では、株価予測の場合はどうでしょうか。

大前提として、仮に予測が可能だったとしても、それは確率分布という形でしかありえないということが言えます。
そして、その分布が急峻であれば、かなり精度が高い予測が可能となり、分布がなだらかだったりピークが複数存在したりするならば、その予測の制度は低いということになります。

株価が予測できると信じる人たちは、例えば多変量解析という道具を用いて、株価に影響を与えるだろう項目を列挙し、それらがどれくらい変動したら株価がどれくらい変動するかを決定します。
そして、「だから将来の株価はこうなる」と結論付けます。

しかし、株価に影響を与える項目の指標もまた、日々変化しています。それはどうやって予測するのでしょうか。
その下にさらに従属的な項目を見つけるのでしょうか。ひどい場合は、その従属的な項目が株価そのものであったりします。

あるいは、いわゆる先行指標というものを持ち出して、「それがこう動いたから株価はああ動く」と予測することもあります。
むしろ、その方が一般的でしょう。

よくあるチャート分析の多くは、この先行指標の考えを用いています。例えば、「大底圏で長い下髭が出たら株価は反発に転じる」などといった類です。
しかし、その根拠はどれくらいあるのでしょう。客観的な根拠が示されない限り、それはアノマリーの域を出ません。

また、企業業績に基づけば株価を予測できるという人もいます。株式雑誌などでは理論株価なるものを掲載している例も見られます。
それとて、過去のデータに基づいて「この企業の株価はこうあるべきだ」と言っているにすぎません。

「株価は短期的には理論株価から外れたところにあっても、長期的には理論株価に収斂していく」と言うかもしれません。それは、わりあい正しいかもしれません。
しかし、理論株価の算出根拠となるデータは、少なくとも四半期毎に変わります。あるいは、それを待たずに大幅な変更があるかもしれません。

結局、理論株価を参考に割安株を買ったつもりでも、その後、理論株価自体が大幅減額にでもなろうものなら、割安株だと思って株を買った人は、梯子を外されたことになってしまいます。
株価が理論株価に収斂する時期とその確率が示されない限り、それは株価予測とは言えません。

これは、理論株価を先行指標として株を売買するということに他なりませんが、では、理論株価が正確に未来を予測しているかというと、それはあくまでも現在の価値しか反映していないということになってしまいます。

そもそも、株価を予測することの意味合いとは何なのでしょうか。よく、「明日の株価が分かれば大金持ちになれる」などと言われます。
それは真実かもしれません。しかし、その情報を15時過ぎに受けたのでは(夜間市場などを考えなければ)意味がありません。

結局、株価予測の恩恵に預かるためには、株価が少なくとも1営業日以上先の特定日において、いくらになっているのかを知らなければなりません。
あるいは、株価が明日の寄値よりもいくら以上高くなるか、安くなるかでもいいでしょう。

それが確実であれば、私たちは借金をしてでもその株式の購入に走るでしょう。予測が確実であれば、可能な限りのレバレッジを掛けることになります。
あるいは、違法と知りながらも、その情報を高値で売るかもしれません。

はたして、そのような予測など、今まで存在したことがあるのでしょうか。実は、それに近いものは結構あります。
いわゆるインサイダー情報です。これは、上に掲げた株価予測の必要条件を、ほぼ満たしています。

だからこそ、インサイダー取引は違法であり、発覚した場合は厳しく罰せられることになります。もしも、あまりに正確に株価を「予測」して、その上で莫大な利益を上げるような人がいたとしたら、その人は間違いなく当局に目をつけられるでしょう。

では、インサイダー以外で株価を正確に予測することなどできるのでしょうか。もっとも、インサイダーの場合ですら、「情報が公開されたら株価が大幅に上がるだろう」とは予測できたとしても、「株価がいくらになる」までは予測できないと思いますが。

この答えは、皆さんで考えていただけたらと思います。


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コメント 2

けいいち

いやー、今日の記事は面白かったです。

Kフローさんの博識ぶりには驚かされます。
大学時代は物理を専攻していた私ですが、
不確定性原理なんてもうすっかり記憶の彼方です(笑)


でもあれですね。
物理はともかく、数学(特に確率統計)の分野で勉強したことは、
今の自分の投資にも役立っているような気がします。

学力低下が叫ばれる今の中高生たちにも、
「将来株式投資で役立つから」と言えば、
少しは数学も勉強してくれるのではないかと思ったりもします(笑)
by けいいち (2007-08-02 19:54) 

Kフロー

けいいちさん、こんにちは。いつもありがとうございます。

私も、大学時代は物理を専攻していました。卒業ゼミでは、「相対性理論」を学んだのですが、今となってはほとんどちんぷんかんぷんです。
今回も、記憶の糸を辿りながら、いろいろなサイトで調べつつ、まとめただけで、博識というわけではありません。

証券会社などでプロとして株式投資を行なうためには、金融工学は必要最低限の知識だと思いますし、それを理解するためには確率統計の勉強が必要になると思います。
もちろんプロでなくても、けいいちさんの仰るとおり、その知識があれば市場で有利に立ち回れる「確率」が高くなるのではないでしょうか。

株式投資のみならず、現代社会の様々な局面で、今後は数学的な知識や思考方法が、より一層重要となってくるのではないかと思います。
そういえば、今は密かな数学ブームのようです。あのビートたけし氏も数学に傾倒し、数学バラエティ番組を持っていることは周知の通りです。

数学の楽しさが、より多くの子供たちに伝わってくれることを願います。
by Kフロー (2007-08-03 09:10) 

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