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トレーディングシステムの最適レバレッジ(2) [システムトレード]

昨日のコラムでは、平均利益率と平均損失率を用いた場合の最適レバレッジに付いて検討しました。今回は、それを一般化した場合について、考えてみます。

昨日の事例では、利益と損失を分けて考えました。しかし、利益と損失とは、いずれも一連のトレードの結果に過ぎず、両者を明確に分ける数学的な理由は見当たりません。
そこで、i番目のトレードの損益をa[i]とし、a[i]がプラスの時は利益、ゼロかマイナスの時は損失として取り扱うことにします。

すると、資産増加率Sは、レバレッジをrとして、次式のように極めて簡単に表すことができます。

  (5)  S=(1+ra[1])(1+ra[2])(1+ra[3])・・・・・・(1+ra[n])
      =Π[i=1,n](1+ra[i])

ここで、Π[i=1,n]()は、()内のiに関する数式を、iが1からnの場合まで積算することを意味します。∑(シグマと読みます)が和をとるのに対して、Π(パイと読みます)は積をとるわけです。
(5)式は、見かけ的には昨日の(2)式よりも簡単になっています。

さて、問題は、(5)式からSを最大化するrを決定することなのですが、最初に述べておきますと、それを解析的に厳密に求めることはできません。
もちろん、昨日も述べましたように、数値的に近似値として求めることは容易に可能なのですが、それは一先ず置いておきます。

とりあえず、Sを最大化することを考えます。そのためには、(5)式をrについて微分して、その結果を0とすればいいことは、(2)式の場合と全く同様です。

では、実際にやってみましょう。
これは一見難しそうですが、関数の積の微分を考えると、次式を得ることができます。

  (6)  dS/dr=∑[i=1,n](a[i]/(1+ra[i]))*Π[i=1,n](1+ra[i])=0

ここで、∑[i=1,n]()は、()内のiに関する数式を、iが1からnまで足し合わせることを意味します。読み方は前述した通りです。
なお、数式が長ったらしくなりますので、以降では[i=1,n]の箇所は省略します。単に∑やΠが出たら、それはi=1からnまでに渡って足す、あるいは掛けるものだと考えてください。

dS/dr=0より、∑(a[i]/(1+ra[i]))=0か、またはΠ(1+ra[i])=0であることが分かります。ここで、2番目の式について考えてみます。

Π(1+ra[i])=0であるということは、(1+ra[i])のいずれかの要素が0であることを示しています。しかし、(5)式に戻って考えれば分かることですが、Π(1+ra[i])=0ということは、資産増加率Sが0になるということです。

これは、資産増加率を最大化するという要請に、明らかに反します。したがって、(1+ra[i])のいずれの要素も0であってはいけない、ということになります。
ここで、最大損失率となるa[i]をa[min](符号がマイナスですからminとします)とすれば、(1+ra[min])が正であれば、資産増加率Sもまた正になります。

すなわち、最適レバレッジrは-1/a[min]よりも小さくなければなりません。実用的には、過去データ上の最大損失率a[min]ではなく、それに論理的なマージンを加味した、絶対安全な(これ以上の損失はほとんど起こりえないだろう)最大損失率a'[min]を用いる必要があります。

ここで、注意していただきたいのは、最大損失率はあくまで1回のトレードにおける損失であり、損失が連続するドローダウンとは全く関係ない、ということです。

したがって、例えば最大損失率が20%で、ドローダウンが50%のシステムがあった場合、1.5倍のマージンを取ったとして、レバレッジの取り得る最大値は1/(0.2*1.5)=3.3倍となります。
けして、1/(0.5*1.5)=1.3倍ではないことに、ご注意ください。

(6)式の一つの解は、r<-1/a'[min](ただしa'[min]<0)であることが分かりました。もう一つの条件式である∑(a[i]/(1+ra[i]))=0を満たすrが存在しないか、-1/a'[min]よりも大きい場合は、最適レバレッジrは存在しないということになります。

では、早速、次式を解いてみましょう。

  (7)  ∑(a[i]/(1+ra[i]))=0

実は、冒頭でも述べましたように、この式を解析的に解くことはできません。この式を展開してrについて整理すると、最終的にはrに関する(n-1)次方程式を解くことに帰結します。

現代数学においては、5次以上の代数方程式の解を、代数的手法を用いて記述する公式は存在しない(一般解が存在しない)ことが、19世紀のノルウェーの若き天才数学者であるアーベルによって証明されています。

ここで、平均利益率と平均損失率を用いた場合の最適レバレッジrの式を、もう一度見てみましょう。

  (4)  r=(pa-(1-p)b)/ab

この式は、次のようにも書き表すことができます。

  (8)  pa/(1+ra)-(1-p)b/(1-rb)=0

何か(7)式と似ていませんか?そう、(7)式において、損益率がプラスでそれが全て同じ値となる場合を利益率a、損益率がマイナスでそれが全て同じ値となる場合を損失率bとし、利益率aが得られる割合(すなわち勝率)をpとすれば、(8)式が得られます。

当たり前の話ですね。もともと、(8)式を一般化したのが(7)式なのですから、それに特殊な条件を当てはめれば(8)式に戻るのは、当然のことです。

ここから類推されるのは、(8)式をrについて解くと(4)式が得られるわけですから、もし仮に(7)式を近似的に解く手法があったとした場合、そのようにして得られる解はやはり(4)式に近いものになるのではないかということです。

(4)式によって与えられる最適レバレッジrは、数値計算で実際に求めた最適レバレッジよりも、かなり大きな値となります。
また、最大利益率と最大損失率とを(4)式に当てはめてrを計算すると、実際の最適レバレッジよりも小さくなります。

ということは、最適レバレッジの近似値を与える利益率と損失率は、平均利益率と最大利益率、平均損失率と最大損失率、の中間にあることが推察されます。
そもそも、最大利益率は統計学的には、利益率分布の端に位置すると考えられます。最大損失率についても同様です。

すなわち、(4)式の平均利益率と平均損失率を、それぞれ、利益率分布と損失率分布の特定位置の値に置き換えてやることで、(7)式の近似解が得られるかもしれません。

利益率分布と損益率分布は、二項分布もしくはポワソン分布に従うものと考えられますが、それを連続関数化した正規分布で代替して、それぞれの標準偏差σ[a]とσ[b]を求め、最適レバレッジrを次式で求めたところ、かなり実際に近い値を得ることができました。

  (9)  r=(p(a+2σ[a])-(1-p)(b-2σ[b]))/((a+2σ[a])(b-2σ[b]))

例えば、トヨタの順張りシステムの場合、買いシステムの最適レバレッジ4.82に対して近似値は4.58、売りシステムの2.59に対して近似値は2.91、ドテンシステムの4.11に対して近似値は4.16となりました。

ちなみに、平均利益率と平均損失率を用いた場合の(4)式から得られるrは、買い、売り、ドテンでそれぞれ、13.06、5.46、10.66、また、最大利益率と最大損失率を用いた場合は、それぞれ、3.24、2.04、2.77でした。

なお、レバレッジが最適レバレッジを上回ると、資産増加率は急速に低下し、場合によってはマイナス、すなわち破産を示唆する状態になることがあります。
そこで、(9)式に多少のマージンを持たせて、σの係数である2を、例えば3にしてやれば、レバレッジを小さく見積もることができます。

ここで、もう一つの条件を思い出しましょう。レバレッジrが-1/a'[min]よりも小さいかどうかです。上述のトヨタの順張りシステムの場合、最大損失率は13.61%であり、仮に1.5倍のマージンを取ったとした場合、最大レバレッジは4.9倍となります。

とりあえず、このシステムに最適レバレッジを適用して複利運用しても、破産する可能性は、数字上は低そうです。
ただし、実際にこのレバレッジで運用したとすると、恐ろしいことが起こりますが、それについてはまた次回ということで。

結局、最適レバレッジが得られたとしても、株式トレードの場合は実質的に3倍以上のレバレッジは掛けられません。
何よりも、このような高レバレッジは、マネーマネジメントの観点からは容易には受け入れ難いものです。

私は以前、むしろ1未満の、例えば0.1のレバレッジで運用するべきだ、とも申し上げました。そのことも踏まえた上で、次回は、最適レバレッジが意味する中身について考えてみたいと思います。
最適レバレッジが意味するものとは、はたして何なのでしょうか?全資金の10分の1で、システムに最適レバレッジを掛けて運用した時、それは全体からはどう見えるのでしょうか?

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