複利リターンの近似解 [投資・経済全般]
昨日のコラムで、「複利リターンが平均リターンを上回る条件を算出することは不可能そうである」との見解を示したが、近似を使うことにより有用な知見が得られたので、以下に報告したい。
n番目の期間における損益率をx(n)とした時、各期間を十分小さく取れば、その期間の損益率もまた十分小さくなることが想定できる。その結果、∑_x^[k]において、kが大きい場合はその項を無視しても構わない。
今、x(n)が0.1(10%)程度のオーダーだとすると、k=2の場合で0.01程度、k=3の場合で0.001程度となる。したがって、k=3以上を無視しても、せいぜい全体の1/100程度の誤差しか生じないであろう。
したがって、複利リターンRcは近似的に、次式のように簡略化できる。
Rc=Ra+∑_x^[2]=Ra+x(1)*x(2)+x(1)*x(3)+・・・+x(1)*x(n)+・・・+x(n-1)*x(n)
ここで、上式の第2項以降について考える。
今、Raの2乗を求めてみる。
Ra^2=(x(1)+x(2)+・・・・・・+x(n))^2
=x(1)^2+x(2)^2+・・・+x(n)^2+2*(x(1)*x(2)+x(1)*x(3)+・・・+x(n-1)*x(n))
=∑_[k=1,n]x(k)^2+2*(x(1)*x(2)+x(1)*x(3)+・・・+x(n-1)*x(n))
上式の第2項のカッコ内は、Rcの展開式に現れた第2項以降と同じである。したがって、これをRcの式に代入すると、以下のようになる。
Rc=Ra+(Ra^2-∑_[k=1,n]x(k)^2)/2
今、複利リターンが平均リターンを上回るためには、Rc>Raでなければならない。したがって、上式の第2項がプラスになる必要がある。
すなわち、
Ra^2>∑_[k=1,n]x(k)^2 ------(1)
となればよい。
ようするに、平均リターンの2乗が各期間の損益率の2乗和よりも大きければ、複利効果が有効となり、損益の再投資を行なうことで資産増加を加速することが出来る。
一方、平均リターンの2乗が各期間の損益率の2乗和よりも小さい場合は、再投資を行なわない方が資産を増加させやすい。
なお、Rcは標準偏差σを使って、以下のようにも表記することができる。
Rc=Ra+(n-1)*(∑_[k=1,n]x(k)^2-n*σ^2)/2
したがって、Rc>Raとなるためには、次式の条件を満たせばよい。
∑_[k=1,n]x(k)^2>n*σ^2 ------(2)
すなわち、各期間の損益率の2乗和が、標準偏差の2乗(分散)のn倍よりも大きかったら、複利効果が有効となる。
さて、(1)式と(2)式とを比べてみると、∑_[k=1,n]x(k)^2という共通項がある。したがって、(1)式と(2)式は統合できて、次式が成り立つことになる。
Ra^2>n*σ^2
これをさらに変形すると、
ABS(Ra)>√n*σ
ABS(Ra)/√n>σ ------(3)
ABS(Ra)/n>σ/√n ------(3)'
となる。
すなわち、平均リターンの絶対値を期間数の平方根で割った値が、標準偏差よりも大きければ、複利効果が有効となり、損益の再投資を行なった方が良いことになる。
左辺が平均リターンの絶対値となっているのは、昨日のコラムでも説明したように、平均リターンがマイナスの場合でも、複利リターンの方が損失が小さい場合があるからである。
さて、過去の投資成績をまとめている方は、その平均リターンと各期間の損益率の標準偏差を計算することは容易であろう。その結果、過去の運用成績が(3)式を満たしているのなら、損益を再投資して従来通りの運用を続けていけばよい。
しかし、(3)式を満たしていないのであれば、再投資を行なわずに定額投資を心掛けるべきである。そうでなければ、結局余計なコストを支払うことになってしまう。
ただし、大幅に負けが込んでいる場合は、元本の補填を行なわずに運用できる範囲で投資した方が、最終的な損失は小さくなる。
元本を増やす場合は、直近の投資成績が(3)式を満たしているかどうか確認してから行なうべきであろう。信用取引でレバレッジを効かせる場合もまた然りである。
なお、(3)'式を用いると、複利効果が有効となる範囲を視覚的にイメージすることができる。統計学に精通した人ならば、確率密度関数を用いて、有用な知見が得られるかもしれない。
私の場合、昨年と一昨年は複利リターンが平均リターンを若干下回る程度だった。今年は今のところ複利リターンの方が若干平均リターンを上回っている。
信用取引を始めてからレバレッジ2.5倍前後の全力疾走が続いているが、今のところ、レバレッジが大きなマイナス要因となっていることはなさそうである。
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