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工学的解析術 [雑感]

私が会社勤めをしていた時、磁気ヘッドの先端から発生する、微弱な磁界の強度を測定する必要に迫られました。
磁界強度を測定するには、通常はガウスメーターという計測器を用いるのですが、これは微小範囲や高周波磁界の測定が困難という、原理的な問題を抱えていました。

測定が必要な磁気ヘッドは、光磁気記録に使用する垂直磁気ヘッドであり、まあ、MDの記録用磁気ヘッドのようなものでした。
この磁気ヘッドの磁界発生エリアは、200um^2程度の矩形で、それを10um程度の分解能で測定する必要があります。

また、同程度の分解能で、磁極表面からの距離に応じた磁界強度を測定する必要がありました。しかも、その磁界強度は高々数百Oe(エルステッド)程度しかなく、それを数Oeの分解能で測定しなければなりません。
さらには、その磁気ヘッドを数100k~数10MHzで駆動する必要があります。

当時一般に市販されていたガウスメーターは、検出器であるホール素子の大きさが数mm^2程度、素子を保護する皮膜や素子部の厚さが数100um程度、しかも、直流からせいぜい数10Hz程度の周波数の磁界強度しか測定できませんでした。

いくつかの測定装置メーカーに確認しましたが、そのような要求仕様を満たす装置の開発は困難、ということでした。
薄膜技術を用いて素子を開発すれば可能かもしれない、というメーカーもありましたが、開発費用として1,000万円単位の金が掛かるということで、断念しました。

そこで、已む無く自社開発することになりました。とは言いましても、当然お金は掛けられませんので、微細な銅線(線経10um程度)を1回だけループさせた微小コイルを、ガラス基板上に形成したものを検出素子とし、新たに唯一購入してもらった数10万円のデジタルオシロスコープにその出力を入力して、波形を解析することで磁界強度を求めるというものでした。

幸いにも測定周波数が高かったため、わずか1ターンの微小コイルでも、そこそこの出力を得られることが期待できました。
しかし、実際に測定してみると、検出した磁界出力の波形が大きく歪んでしまいます。

その原因は明らかでした。磁気ヘッドを高周波で駆動するためには、コアに巻かれたコイルに高周波電流(しかも数100mAもの大きさ)を流す必要があり、そこから放射される電磁波(放射ノイズ)が検出用コイルに飛び込んで、微弱な磁界出力を掻き消してしまうのです。

しかも、放射される電磁波は、周辺のわずかな環境変化で大きく変化し、全く安定しません。さすがにこれでは補正のしようがないと頭を痛めたのですが、ある方法を試してみたところ、嘘のように放射ノイズが消えて、鮮明な磁界出力波形を得ることができました。

それは、磁界強度は距離が離れるに従って急激に減衰するのに対し、放射ノイズはそれほど減衰しないという原理を用いたものです。
すなわち、磁界強度を測定したい距離で放射ノイズ共々その出力を測定し、デジタルオシロに記録した後、数mmの距離で同様に測定し、その出力を先に測定した出力から差し引くわけです。

すると、遠隔作用の放射ノイズ成分が相殺され、後には近接作用の磁界強度成分のみが残るという寸法です。
これによって、ようやく目的を果たすことができました。

ノイズの乗った波形からノイズ成分を分離し、必要とする出力を得るという手法は、工学分野では結構一般的であり、大きな成果を上げています。
最近の事例では、ノイズキャンセリングヘッドフォンなんてものも、実用化されています。

でも、トレードの分野ではどうなんでしょう?何か説得力のある応用事例はあるんでしょうか?
そのようなアプローチがあっても良いのではないかと思いますし、少なくとも、それが私の目指す方向性だと考えています。

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コメント 3

Y102

すごい!
というか、もの凄い人なんですね、Kフローさん。

※何度もコメントすみません。
by Y102 (2010-05-20 20:06) 

Kフロー

Y102さん、こんにちは。
何度でもコメント大歓迎です(笑)

別に凄いことでもありません。当時、一緒に仕事を行なっていたソニーや三洋などの人達は、もっと凄かったですよ。
私なんか、彼らの足元にも及びません。

by Kフロー (2010-05-21 08:37) 

Kフロー

marbeeさん、こんにちは。
いつもありがとうございます。

by Kフロー (2010-05-23 16:26) 

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