昨日、ちょっと書き忘れましたが、マルチファクターモデルと自己相関モデルには、もう一つ、決定的な違いがあります。
そして、そのことがマルチファクターモデルの優位性を高めている、とも言えるかもしれません。

それは、(株式を売買対象とする)自己相関モデルの前提となる株式市場においては、株価が変化する時間帯が限定されている、ということです。
当日の場が引けてから翌日に寄付くまでの間は、株価が変化しない、すなわちシステムを適宜更新することができないわけです。

その間に何らかの重要な発表があったとしても、それが株価に織り込まれるのは、翌日の始値まで待たなければなりません。
当然、その情報を織り込んだシグナルを出すためには、翌日の寄付き以降まで待つ必要があります。

自己相関モデルにおいては、あくまで株価のみを情報源とするわけですから、株価が動いていない時間帯においては、その間の重要な情報を織り込むことができないわけです。

一方、マルチファクターモデルであれば、翌日に場が開くまで待つ必要はありません。重要な発表、あるいはそれに連動する指標を用いて、システムを更新することができます。
その結果、より迅速な売買が可能になるかもしれません。ただし、そのことが必ずしも直ちに収益に結びつくわけではない、ということに注意する必要があります。

自己相関モデルであっても、夜間PTSを利用したり、寄付き前の板情報を参照すれば、寄付き前にアクションが取れると考えるかもしれません。
しかし、それは厳密には自己相関モデルではありません。PTSは実質的には異なった市場ですし、板情報に至っては、株価データですらありません。

すなわち、それらは本質的にはマルチファクターモデル以外の何者でもないわけです。
自己相関モデルというのは、あくまで単一市場・単一銘柄における、場中の株価データのみを判断材料としたシステムである、ということになります。

このように考えると、自己相関モデルとは何とも不利なシステムである、と思えるかもしれません。しかし、次のような手法を用いることで、ある程度はその状況を改善することができます。

まずはデイトレシステムにおいてですが、この場合は分足もしくは時間足データを用い、寄値に基いてシグナルを出した後、一定時間後もしくは一定の条件が満たされたらエントリーするようにすれば、寄付き前の情報を織り込むことが可能です。

続いてスイングトレードにおいてですが、この場合は基本的に寄付き前の情報による影響は「諦める」ということになります。
ただし、ある程度の期間に渡ってポジションを維持しているわけですから、平均的には寄付き前の情報による影響はキャンセルされると考えることができます。

最後の手仕舞いもしくはドテンの段階になって、直近の情報による影響が強く現れることになりますが、その寄与度は保有日数分の1に薄められると考えることができます。
すなわち、マルチファクターモデルと比べれば不利には違いありませんが、思ったほどには不利でもないわけです。

しかし、不利な情報が連続して出てきた場合には、どうしても手仕舞いが一歩遅れてしまう可能性があります。
そこで、例えばシステム当たりの運用資金を小さくしたり、レバレッジを低くしたりすることで、その分のリスクを低減する、などといった手法を考えることができます。

ちなみに、以上は株式トレードにおける場合の話ですが、為替の場合は基本的に24時間売買可能ですので、株式のような情報ギャップは存在しません。
すなわち、そのような意味においては、マルチファクターモデルと自己相関モデルの優位差は小さいと考えられます。

今回は、当初の予定とは異なった内容になりました。次回は、自己相関モデルについて、もう少し考えてみたいと思います。
なお、明日は「今週の投資成績」を掲載予定ですので、次回は来週月曜日になる見込みです。


PS.昨日の引け後にゼンショーから重要な情報が開示され、今日の株価は非常に大きな影響を受けました。ただ、結果的には思った以上に下げずに済んで、ほっとしています。
こんな時、システムだとどうなるんでしょうね?マルチファクターモデルなら、恐らく寄付きで売りだったのかもしれません。