5月19日の土屋氏のエントリーは大変面白く、非常に興味深く読ませていただきました。そこでは、レジームスイッチの概念について、天気予報を例に述べられているのですが、その内容につきましては、エンジュクの同氏のブログをご覧ください。

さて、極論すれば私たちはお金を稼ぐためにトレードを行なうわけであり、そのためにいろいろな手法を考え、それを実行に移すわけです。
それが上手くいけば、大きな失敗を被るまでその手法を継続し、上手くいかなくなった場合は、新たな手法を考えることになります。

最初からシステムトレードの世界に飛び込む人は、どちらかと言えば少数派でしょうし、大抵の人はファンダメンタルや直近のチャートを見て、投資判断を行ってきたのではないかと思います。
そして、それではどうしようもないと悟った人の一部が、システムトレードの世界に飛び込んで来るのではないでしょうか。

これは私の体験なのですが、トレードを始めた当初は直近の材料に右往左往しつつも、株価を当てにいったことを覚えています。
このような材料があって、このようなチャート形状だから、株価はこれから上昇するはずだ、などと、真剣に考えていたわけです。

これは言わば、勝率100%を目指す戦略です。そして、そのような行動は、自分で天気予報を行うようなものであり、けして上手くいかないだろう、というのが、当時の通念だったと思います。
もっとも、天気予報の的中率は8割前後と言われており、トレード勝率が8割もあったら素晴らしいことです。

天気はあくまで物理現象であり、カオス的な要素が強いとはいえ、原理的には計算可能な世界です。事実、スーパーコンピュータを用いて、台風の進路をかなり正確に予測できたりします。
もっとも、私は詳しくは知らないのですが、明日の天気予報程度の場合は、直近の気圧配置に近い過去の気圧配置を集めて、統計的に予測しているようです。

また、最近ではアメダスのような観測装置や観測者を多数配置し、それらで観測される気象現象から、例えば雨雲が移動する方向や速度などを割り出して、その進路にあたる地域の天候をかなり正確に予測できるようです。

一方、例えば株式相場の場合は経済現象であり、その背景には不確実な要素が充満しています。もちろん、全てのキャッシュフローを正確に把握できるのであれば、ある程度は計算可能となるのかもしれませんが、それを容認する勢力は皆無でしょうし、仮にそれが明らかにできたとしても、続いて人間心理という関門が待ち構えています。

私には到底、台風の進路計算のようなことが、株式相場において実現できるとは思えません。しかし、古典的な「明日の天気予報」であれば、同様の手法を用いることは可能です。
それが、現在広く行なわれている、「一般的なシステムトレード」ということになるのでしょう。

しかし、現実の天気予報が外れることがあるように、より不確実な相場の世界では、その「的中率」はより低いものとなってしまいます。
それでも、直近の材料に反応して売買するよりはマシだという思いが、システムトレードを支持しているのかもしれません。

まあ、そのようなものですから、特にシステムトレードの世界においては、「勝率よりは損小利大が重要」という考え方が大きなウエイトを占めています。
勝率が4割しかなかったとしても、損益レシオが2もあれば、期待値はプラスになるわけです。

このようなトレードの場合、雨が降っていても、傘を持たずに出かけなければならないことが、多々あります。
もちろん、勝率を高めればそのような状況は減少するのですが、「高勝率」と「損小利大」は一般にトレードオフの関係にありますので、どちらかを優先しなければなりません。

少なくとも、私はそのように学習してきましたし、究極の目標が「高勝率」と「損小利大」の両立だとしても、そのハードルは極めて高いと言わざるを得ません。
もっとも、「勝率」や「損小利大」を持ち出すこと自体が、バックテストの産物である、と言われれば、その通りかもしれません。

恐らくは、アメダスのようなものがあって、短期的・局地的な予想を行なうのであれば、これらは両立できるのかもしれませんし、土屋氏の述べることはそのようなことなのかもしれません。
しかし、それが実行できる人や環境は極めて限られますし、それが限定されなくなった時には、その手法もまた効率的市場の海に沈んでいくのだと思います。

最後に、土屋氏の例え話について、ちょっとコメントさせてください。ただし、私が感じたことは、必ずしも土屋氏が意図したことは違っているかもしれないことを、お断りしておきます。

土屋氏によれば、過去において、晴れの日が雨の日よりも多いということを発見した人は、毎日傘を持たずに出かけることが正しいと信じてそれを行なうとすることになるが、それはおかしなことである、というようなことを例えています。

これは言い換えると、バックテストによってシステムの期待値が正であることを確認したトレーダーは、そのシステムがドローダウンに見舞われたとしても、盲目的に運用し続けることになるが、それはおかしな行為だ、というものです。

これについては、一概におかしな行為とは思えません。ドローダウンは大なり小なり必ず存在するものであり、その度にシステム運用を停止していたら、システムトレードは成り立ちません。
もちろん、あまりに異常なドローダウンが生じた場合には、システム運用を中止する必要があることは、言うまでもありません。

そこから更に考えを進めると、レジームスイッチということになるわけです。すなわち、そのシステムが機能するレジーム(晴天)と、機能しないレジーム(雨天)とを、直近の傾向を見ることで判断し、それを適宜切り替えていく、ということになります。

ここでは、あくまでレジームの切替を直近の傾向で判断するわけであり、それについてはまったく異論はありません。
すなわち、レジームスイッチシステムに関しては、バックテストなど意味がない、というのはもっともなことです。

しかし、切り替えられる元のシステムに関して、必ずしも直近の傾向のみで構築できるものなのかについては、私には疑問です。
この辺りの疑問については、上述の例では説明できていないように思います。

もっとも、レジームスイッチを内包した一つの分離不可能なシステム、ということを想定しているのであれば、まあ分からないではありません。
それでも私の哲学として、過去を全く参照しない世界は考えられないのですが。